「雪女への書簡」


「僕は君に何か言うことができるだろうか。言うべきことなんて何もないのかもしれない。僕は君にもう1度会いたいのか。会えたとして一体何を言うというのか。確実なことは何も言うことができない。僕の言葉は凍りついてしまった。凍りついて、墜落して、なおもその骸の上に雪がしんしんと降り積もっている。そして春が来て全てが融けたら…腐るんだ。僕は何を言おうとしているんだろう?全ての物が腐るのは君の責任じゃない。君はただ全てを凍らせるだけのことだ。僕は君に戻ってきてもらいたいのか、それとも2度と姿を現さないでもらいたいのか、そんなことすら決めることができない。この文章はほとんど文章としての体をなしていない。にも関わらず僕は推敲も削除もせずに、この手紙を封筒に入れて君に送ろうとしている。僕はなぜだか君ならこんな愚かな手紙でも許してくれると思っている。なぜなら君は誰のどんな手紙にも興味を抱くことができないからだ。全て君にとっては平等にゴミなのだ。そのことが僕をひどく安心させる。


 君の住所を僕は知らない。ただ封筒に名前だけ書いて郵便局に行って特別な料金を払えばそれでいい。手紙は確実に届く。返信なんてほとんど来はしないのに、なぜ僕は手紙が確実に届いたと信じることができるのだろう?多分…郵便局の窓口の女性があんなに美人で、あんなに素敵な笑顔で「確かに承りました」と言ってくれるからかもしれない。でもこのことは君には関係ない。このことは本当に雪女には関係ない。もう無駄なことを書くのはやめる。」

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