短編小説「皇帝」


 皇帝の周りには9人の男が控えているが、これは1人1人が1万の兵士を抱える将軍である。そして皇帝自身も1万の直属兵を抱えている。彼は将軍1人1人に命令を与えて解散させた。将軍達は仰々しい礼を行った後で皇帝の部屋を出ていった。


 また皇帝の部屋に9人の男が入ってきた。彼らは1人1人が1000人の兵を預かっている近衛隊長であった。残りの1000人は皇帝が直接隊長となって指揮するのであった。皇帝はあれこれ命令を与えた後で、隊長達を持ち場へと帰らせた。

 さらに皇帝の部屋に9人の男が入ってきた。彼らは1人1人が100人の兵を預かっている親衛隊長であった。本来は1000人の近衛分隊は皇帝が直接指揮しなければならないのであるが、うまくそれができなかった皇帝は近衛兵をさらに10の親衛隊にわけ、9人の親衛隊長に分隊を指揮させ、自らは100人の分隊を直接指揮することにしたのであった。皇帝は9人の隊長を激励し、持ち場に帰らせた。


 さらに皇帝の部屋に9人の男が入ってきた。100人の親衛分隊も、結局皇帝がうまく管理することができなかったので10の派閥に分裂してしまったのであった。皇帝はなんとか9人の支持者を見つけて自分の派閥を作ることに成功した。今部屋に入ってきたのは自分以外の派閥の領袖9人だった。9人は皇帝に形だけの報告をし、慇懃無礼に帰っていった。

 そしてまた9人の男が入ってきた。彼らこそは皇帝の派閥に属する9人であった。その9人は皇帝の部屋に入るや否や棚から酒を取り出して勝手に飲みだした。皇帝が注意してもむしろ「つまみを持ってこい」などと言うばかりで、一向に命令を聞こうとしなかった。皇帝も皇帝で、言いなりになってハムやチーズなどのつまみを取り出して自ら皿に盛る始末であった。皇帝は結局9人全員にそれなりの褒美を与え、そして持ち場に帰させたのであった。皇帝は1人、部屋の中で宴会の残骸を片付けながらこう呟いた。


「ああ、皇帝というものはなんと悲しい生き物なのだろう」

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