雑文

しかしどこもかしこも寒い。雪女に世界を支配されてしまったかのようだ。どんな場所にも腰を落ち着けることが出来ない。クーラーが強かったり、日差しが強すぎたりする。


僕はまたここに来てしまった。中央図書館前のベンチ。そこに座って僕はこの文章を書いている。右隣のベンチには2人の老婆が座っていて、もう30分ほどもおしゃべりを続けている。図書館が取り壊されても、世界が終わってもこの2人の老婆は残り続けるかもしれない。そして失われた世界のことについて、それも卵の値段だとか友人の近況だとかいった日常の些末な事柄について際限もなくおしゃべりを続けていくのかもしれない。


男が痴情のもつれの末に元恋人とその彼氏をナイフで刺し、彼氏の方が死亡するという事件が埼玉で起きた。珍しくもない事件だと思うかもしれないが、問題は加害者も被害者もいずれも16歳だったということである。女は友人に恋人(つまり加害者)によるDVについて相談していたという話もある。全く何が何だか。

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〇小説

オハイオ州ワインズバーグ。そこで生まれ育ったあるアメリカ人がいた。地元の大学を卒業し、その後衣料品のバイヤーの仕事についたあげくリストラされた。友人たちの内2人は薬物犯罪で逮捕され、また2人は処方薬で廃人同然となった。


失業保険でしばらく食いつないでいたが、それが尽きると実家に戻った。両親は意外なほどに優しく迎え入れてくれた。


祖父は南部出身の黒人で、奨学金の助けを借りて苦学し、○○大学を卒業した秀才であった。ミシシッピ川を遡るようにして祖父はオハイオまでやってきた。金融会社につとめ、高い年収を得た。公民権運動にも積極的に参加し、その際に知り合ったデンヴァー出身の女性と結婚した。

父親は祖父の言いなりであった。祖父の指定する大学へ行き、祖父の指示する会社に就職した。祖父は自分が世界一優秀で、自分の言う通りにやっていれば誰も何も間違うことはないと信じて疑っていなかった。


父親は地元の白人女性と結婚し、そして彼が生まれた。

祖父は職も持たず実家で暮らす孫のことを心よく思っていなかった。父親に祖父は何度か苦言を呈したが、父親はのらりくらりとかわし続けた。


彼は初めはゲームばかりやっていた。しかしゲームそのものはあまり上手くはなかった。1日何時間も、寝食もないがしろにしてゲームに費やす、というタイプではなかった。やがて彼はアニメに手を出すようになった。

彼は初めからアニメを馬鹿にしていた。馬鹿にしつつ、突っ込みや茶々を入れながらそれでも最後までしっかりと観る、というタイプのアニメファンであった。どんな分野にでも言えることであるが、こういう「半身だけ浸かる」というタイプに限っていつまでもその世界から抜け出すことが出来ないものなのである…


彼はアニメコミュニティに入り浸ることを好んだ。ともするとアニメを観ること以上にアニメについて語ることを好んでいるとさえ言えた。


要するに彼は欠けた自尊心を埋めるためのピースとしてアニメを利用していたのである。その空しさ、そのおぞましさは日本のアニメファンのそれに匹敵するほどであった。

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