雑文


 この壁についての話をするべきなのだろう。それはわかっているのだけれど、いかんせん口をふさがれているのでどうすることもできないのだ。

 そう、僕の口はふさがれているのだ。誰がふさいだのか?何によってふさがれているのか?両方とももちろんわかっている。僕はいきなり鈍器で殴り倒され、口に何かをおしこまれた上でガムテープを貼られてしまったのである。今でも頭はずきずきする。誰がそんなことをしたのか?こんなことをする人間は1人しかいない。それは…


壁。世界には様々な壁がある。昔の土地は大抵壁に囲まれていた。パリだってフィレンツェだって昔は城壁で囲まれているのである。パリのそれは今ではすっかりとりこわされ、その跡地は高速道路になってしまっている。交通を妨げる象徴であった壁はとりこわされ、今では道そのものと変化して贖罪をしている、というところであろうか。

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「あなたはどこに行きたい?」

「よくわからないな…」

「じゃあ質問を変えるね。あなたはどこに行ったことがあると人に思ってもらいたい?」

「ん…それなら答えられるかもしれない。パリ、フィレンツェ、ロンドン、イスタンブール…それからバクー、ヴォルゴグラード、サマルカンド、ハバロフスク…あとはデンヴァーかな…」

「その都市の羅列、きっとあなたには意味のあることなんだろうね」


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