「追放」
「ちょっとだけ…ちょっとだけ待ってほしかっただけなんだ。ただちょっと、ただほんのちょっとだけ。ゆっくりと考え事をしたかっただけなんだ」
「それでいつのまにか7年の時が過ぎていた。そういうわけだね」
「そんなことありえないよ。そんなことが許されていいものだろうか?だっておかしいじゃないか…。僕は今までずっと走り続けることを強制されてきたんだ。ほんのちょっと。ほんのちょっとだけ…。ゆっくり休むことぐらい、許されてたっていいじゃないか?なあそうだろ?そうは思わないか?」
「私はあんたの過去を知らないからね。なんとも言えないよ。あんたが本当に死ぬ気で走り続けてきたのか。それともただ口でそう言っているだけなのか。私には判別がつかないんだよ」
「いやあ…。本当に僕は…。何も言わずに…。何の不満ももらさずに…。何か、何かないかなあ?…ないなあ。傷でもあればよかったんだろうか?しかし僕らが生きていた世界ではほんのちょっとの傷が命とりになったんだ。無傷だったからこそ僕はここまで来ることができたんだよ。…勲章?勲章のようなものがあれば…。しかし誰かに勲章をあげることができるぐらいに尊敬されていた人間なんて、誰もいなかったからな…。じゃあどうすればよかったんだろう?どうすればよかったんだろう?」
「さあね。ただ時間は誰にとっても平等だったというだけのことさ」
「しかしだね…しかしだね…。おかしくないか?ここの住民はこんな分厚い城壁に守られて…。僕たちの世界の惨劇なんて誰も知っちゃいないんだから。外からやってきた僕はもうちょっと…もうちょっとゆっくりとしていたっていいじゃないか」
「ゆっくりしていたじゃないか。7年間もたっぷりと。初めからそういう取り決めだったはずだ。7年間の猶予があたえられる。その期間内にこの城壁の中に居場所を作ることができたなら、あんたは永遠にここで暮らしていくことができる。それができなければ追放される、と」
「知らなかったんだ。時間がこんなに早く過ぎていくものだったなんて」
「知らないということは時に罪になる。あんたに忠告する人も結構いたんじゃないのかい?でもあんたはその度に耳をふさいだ。知ることを恐れた。結果こういうことになっている。…十分反省して、今後はこういうことにならないようにするんだな」
「でも…しかし…」
「もういい。今となっては言葉は無意味だ。あんたはこの町を追放される。それが全てだ。さよなら」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?