百瀬小学校(仮名)について(1)

 私の思い出はフィクションです。


 百瀬小学校(仮名)について

 小学生のときの話だ。
 「学校で一番広い部屋がどこか調べよう」
 面積の求め方を習った授業で先生が出した課題だった。班ごとに理科室や家庭科室など学校のいろんな部屋の広さを調べて比べてみよう。僕の班は理科室と図工室を調べることになっていた。図工室は棚や作業台が多く、「たて」「よこ」の長さを取るのに時間がかかってしまった。先生からは理科室の面積を求めない限りは帰宅を許さないとの達しがあったため、僕らは居残りになってしまった。
 放課後の理科室というと、小学生の僕らには怪談話の主人公になった気分でわくわくしていた。当時はテレビで心霊番組がはやっていたこともあって、「すこしこわいこと」「すこしふしぎなこと」が怒るんじゃないだろうかと期待していたのだ。
 放課後とはいえまだ四時前の理科室は日差しがあって明るかった。明かりは消えていたが、十分だった。人体模型や骨格標本を見て怖がったふりをして遊ぶ余裕があった。教室の奥行横幅を調べ終わると、僕らはもう少し怖いものがないものかと棚を物色した。ホルマリン漬けのなにか気持ち悪いものとかだ。そうしているうちに女の子が大発見をした。
 理科準備室の鍵が開いていたのだ。
 普段なら先生と一緒でなければ入ることのできない「秘密の部屋」だ。危険な薬品や標本があるに違いない。「理科室の面積調べなんだから、準備室も調べなければならない」「鍵が開いているということは入ってもいいのだ。入ってはいけない部屋には鍵がかかっているのだから」という理屈で私たちはうきうき調子で準備室に忍び込んだ。
 そこは期待したようなところではなかった。換気が悪く、乾燥剤の化学的な匂いが漂う、どんよりとした嫌な空気は想像通りだったが、おどろおどろしい標本や危険な実験器具は無かったのだ。僕らはがっかりしながらも実験室の計測を終わらせた。

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