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土下座は悲劇をぶっ飛ばす

20230119



木曜日


 天気娘(ウェザーガール)には根に持っている事がある。

「あたしだけさらし者で、他の人は全然書いてない」

不具合を出した時に書く報告書の事だ。


 諸事情があって活動していない品質係。そのメンバーのわたし。
根に持っているから何度も同じ話を振られ中である。

天気娘「品質は解散したのか?」
わたし「自然消滅しました」
天気娘「あたしの報告書が全然掲示されない。他が書かないから自分だけさらし者になるのか、って思ってたのに貼り出されないしさ」

 掲示されない事を問題にしているが、話の核は自分だけ書かされている、自分だけ辱めを受けている、という苦情。
報告書ってそういう事じゃないと思うんだが。
他人の事より、今手掛けている物が製品と一致してる型なのかを気にした方が良いぞ。



 品質係が活動していない諸事情というのは、品質長の赤べこが頑なに集まろうとしないからだ。我々もなぜそんなに頑ななのかは分からぬ。

二、三回集まって、そこからピタリと活動がなくなった。
活動と言っても報告書の流れを作って、後は不良の是正確認が主だから、問題が起きなきゃやる事もない。
不良の話はたまに小耳に挟むけど、報告書は出てないな。出す出さないは営業判断だし。



 天気娘「去年T代さんが二個で一セットなのを間違えて代替えをあたし急いで抜いたんだけど、それも書いてないでしょ」

へぇー、知らんなー。
根に持ってんなー。

わたし「一応ボスさん(営業)が言うには、お客さんが代替えしてくれればいいよって場合はいいんだって言ってました」
天気娘「あたしが型間違えたってやつはペロちゃん(営業のペロリ)が書いてって言うから書いたけど」

別に間違ってないからそこで会話が途切れた。
根に持ってんなー。








残業時間。

 天気娘とチャイナの喧嘩以来、この時間の休憩でボスがチャイナにお菓子を渡すようになった。

明らかに気を遣ってるなーと思った。今日もそうだった。
腫れ物に触る感じなのかな。


わたし「気遣ってます?」
ボス「気を遣ってる。だってチャイナさんあれ以来お菓子食べてないんだもん」
わたし「え、そうなんですか?」

我々は食堂の前の方に陣取ってて、チャイナは真ん中で、天気娘は一番後ろ。
背中に目でも付いてんのかってくらいよく見えているボス。
わたしがただただお菓子を食べている横でそんな気遣いを発動させていたとは。

ボス「お菓子取りに来てないんだもん」
わたし「よく見てますね」

チャイナ達のお菓子置き場はわたしの右側にある。
ボスの背中に目があるんじゃなくて、わたしが何も気にしてないだけだった。

 この話の流れで、天気娘とチャイナが和解?した時の事を話してくれた。




 天気娘とチャイナの他に、ボス、三代目、醤油おじさんの三人の管理職が仲介人で応接室に集まった。

ボスは所属的にいうと無関係だが、こういうのが上手いから巻き込まれている。

チャイナ「尊敬する天気娘さんにあんな事言われてショックでした。
もう続けられない。辞めます」

ボス「旦那さん定年退職して子どもも自分の扶養なんでしょ?よく考えて」

常套句で説得していると、突然、天気娘が椅子を退かして「辞めないでください」と土下座したらしい。

それにはみんながビックリ。
チャイナも母国・中国では目上の人が頭を下げるのはいけない事だとか言って「やめてください!やめてください!」と慌てていたという。

ここ日本では下剋上が成功すると視聴率が取れるんだよ。


チャイナはそこまでされたらと、結局仕事を続ける事に。

怖かったね。
悲劇のヒロインも悲劇ぶっ飛ぶね。



 前半の報告書の話でも書いたが、天気娘は辱めを受けるとか、恥を受け入れる事が困難な性格。
そんな人が土下座するとは。

殿(社長)に「土下座してでも穏便に済ませろ」と言われたから、土下座のカードが手前にセットされていたんだろう。

本当にやるとは殿も思ってなかったのではないだろうか。
そういう覚悟で挑めという意味であって。
猫の手も借りたい、が本当に猫の手を必要としてる訳ではないように。

そういえば、「ぼーっとしてるだけなら帰れば!?」に「ありがとうございまっすぅー」って返事して素直に帰って行った社員が昔いたな。


「土下座してでも〜」って殿が言っている声を聞いた訳じゃないから何とも言えないけど。

天気娘やりよる。




 気持ちの良い終わり方ではないが、騒動はこれにて幕引きとなった。





 しかしこれはボスの語りなので、仲介人の裏側の話も聞けた。
ボス的にはこちらの方が本題。


 ボスは自分がマー君と喧嘩した事もあり、もう余計な事に関わるのは止める宣言をした。
なのに二人の悪い奴らによって最終的に騒動に巻き込まれて、仲介人になっていたという。



 一人目の悪い奴・醤油おじさん

天気娘とチャイナの喧嘩で一番動かなきゃいけない醤油おじさんは、
何かある度にボスに報告しては騒動の収拾をなすり付けようとしていた。

騒動が起きた直後のこと、
ボスが「殿に騒動の事を電話で報告した方が良くない?休みに入っちゃうよ?でもあたしがまた首突っ込んじゃうと……」と葛藤していると、
それを聞いていた取締が「あたしが醤油おじさんに報告するよう言って来ようか?」と、代わりに醤油おじさんの元へ。



取締「殿に報告しなくていいの?」
醤油おじ「何が?」

醤油おじさんは終始「何が?」で返事をして、
分からんちんのフリをして逃れようとしていたらしい。

結局醤油おじさんが電話をかけたが、
「留守電だったらどうする!?」と超ビビっていたという。


 醤油おじさんという人物は、天気娘達の上司で管理職。
「俺の言う事には殿も一目置く」と周囲に吹いて回るおじさんで、何が何でも責任を取らないおじさんでもある。

責任を取らないから基本的には寝ながら出来る仕事を求め、社内一、指を落とす実績を持つ。
同じおじさんばかり怪我するから警察も駆けつけた事があるほど。


 醤油おじさんは他の会社であったなら確実に窓際な存在だろうが、ここの会社の経営者は殿だ。
殿は未来のvisionを持っていないが故に、型にはまるのが大好きで、何を変えれば良くなるとか考えるのが大嫌い。何が何でも現状維持。

年齢や入社歴で管理職を決め、クビ寸前まで行った社員(隣の元上司)でさえ、雑用をやらせていただけなのに定年を迎えるまで管理職で居させた懐の深い男だ。
懐に穴が空いている。

 懐の穴がでかい殿でも、何を言っているのか分からない醤油おじさんの事は苦手なようで、
出来ればボスから話を聞きたかっただろう。



 二人目の悪い奴・取締

醤油おじさんが留守電を入れて暫くして、殿が会社に戻って来た。
醤油おじさんの留守電じゃ話が分からなかった殿は、実妹の取締に事情を聞いた。

取締は説明出来るはずなのに、
「自分は何も知らない、ボスさんから聞いてください」とボスに押し付けたという。
これは取締がよくやる手。

この時点でボスは完全に関係者へと巻き込まれた。


 ボスは醤油おじさんの無責任にも腹を立てていたが、それよりか呆れが勝っている。
取締の裏切りの方が許せないようだった。

 殿を前にすると途端に裏切るのは今に始まった事ではない。
あからさまな保身に走るのだ。


 普段はボスさんがいないと息が出来ないの〜ってくらいボスにベタベタな取締。
プライベートもボスと共用したくて、ボスが自分を誘ってくるよう会話を誘導してくる。
回避が難しい受け身の女だ。

そんな女は簡単に裏切る。
そして裏切った後はまた自分の心の安定の為にベタベタに擦り寄ってくる。
自分のことしか考えられないのだ。



 この悪い奴二人の共通するところは、自分の為に他人が存在していると思っている事。

わたしの日記に登場する主な人は、皆この感性を強く持っている。
それがバレているということ。

きっと後先考えずに器ギリギリまで先にスープを入れてしまって、具を入れる事が出来なくなった人生なのだろう。
肉なんかぶっ込んだ日にはスープが溢れてとんでもないことになる。
彼らは常に表面張力で張り詰めている。

スープの量を減らせる事が出来たら、カリスマのようになれる可能性を持った人だっていそうなのに。



 腹が立ってしょうがないボスにわたしは、
「正常な頭の人って苦労するんですよ。狂ってる方が勝ちなんですよ」と慰めた。慰めた?

そして帰った。



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