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『小さくて強い店』について考えてみた 5.

※こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

1人や2人でされているパン屋さんにどれほどの製造能力があるのかと考えれば、その限界はやはり低い。
そもそもパン屋さんの仕事は基本的にいくつものポジションがあり、仕込みから始まり商品として完成するまでにかなりの時間を要する。
それらポジションの違う仕事を複数の職人さんによって同時に並行して進めることができるから必要な製造量を作ることも、いまのような労働時間で終えることも可能になる性格の仕事といえる(それでもまだ長い)。
並行して仕事を進めることができない状態でパン屋さんをするのは、1つ目処がつくなり終われば次のポジションの仕事をするといったこれ以上ないほど非効率な仕事の仕方になる。
パン職人さんなら伝わると思うけれど、これだと同じ仕事量であってもなかなか終わらない。

こんなやり方では当然身体を壊すことになりかねないから今度は1つ、1つの製造量を抑えるようになる。
こうして早々に「本日は完売致しました」と告知されたり、わずかな棚さえも商品がまばらにしかないお店が出来上がることになる。
またその価格がいわゆるパン屋さんの価格設定だった場合、売上がどういったことになるのかは書くまでもないと思う。

もしかするとお客さん側から見れば、早々に売り切れを起こす程度の製造量なら気楽にやっていると思われるかもしれないけれど、中で働いている人はその程度の製造量のために尋常でないほど働かれている可能性も高い。
これがパン屋さんという仕事の性格であり、適切な人員で運営しないと経費を抑えているつもりが逆効果で非効率な結果になりかねない。

うちで働いてくれた子たちが独立をするときに挨拶に来てくれることがある。
その際、ぼくは必ずというほど「まず1人でもスタッフを雇った方がいい」と伝える。
中には「人件費を考えたら怖くて雇えないです」という子もいて「社員が無理ならせめてアルバイトを雇って。絶対にその方が効率もいいし身体を壊したらそれまでだよ」と言うものの「そのアルバイト代さえ払える自信がないんです」と、そのときには言っていた元スタッフもいまでは複数のスタッフを雇用している。

元スタッフではないけれど、身近な人たちの中だけでもパン屋さんをやって廃業した人が何人かおられる。
必ずしもそれが原因とは言い切れないけれど、いずれも1人で製造をされていた人たちだった。

つづく


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