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コーヒーについての私的考察 2.

※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

ぼくは大人になったいまでもコーヒーをブラックで飲むことがまずない。
クリームを必ずというほど入れるし、なければ牛乳を入れる。
とにかく大人ぶりたかった10代のころは、無理をしてでもブラックで飲もうと何度か試みてはみたけれど早々に諦めた。

その後も大人になれば味覚も変わるだろうと20代、30代、40代と10年ごとに一度や二度はブラックで飲もうとしたけれど、一口飲んでは結局クリームを入れた。
一緒にいる人たちみんながブラックで飲んでいたり、喫茶店のご主人がカウンター越しのときには、あぁ、もったいない。こいつ、コーヒーをわかってねーな、と思われているだろうなと罪悪感や劣等感に苛まれながらクリームに手を伸ばす。
ちなみに砂糖は入れない。

昔、親戚が喫茶店をやっていたので小学生の夏休みには、アルバイトとは呼べない程度の小遣い稼ぎをしていたこともあった。仕事は気楽そうだし、お店の中はずっと良い香りに包まれていて、ぼくも将来喫茶店をやりたいと子供心に思ったものだった。
一方で、そのころからずっとコーヒーに対し思い続けてきたことがある。

コーヒーって、香りほど美味しいものではないなぁ

これはブラックのことで、もちろん主観でしかない。
食べものの場合、特に温かい状態のものは良い香りがして、そして食べると香りと同等かそれ以上に味を明確に感じることが多いけれど、香りの時点でこんなに期待値を上げたら後が大変なんじゃないの?と思わずにいられないのが、ぼくにとってのコーヒーだった。

余談になるけれど、新宿スタッフ(今の日比谷スタッフ)のみんなと渋谷にあるフランス料理の名店 ラ・ブランシュさんへ訪れた際、ぼくはその美味しさに感嘆した。
盛り付けはシンプルで、どちらかといえばクラシックな印象だけれど前菜から主菜はもちろん、冷製であるデザートに至るまでどのお皿もとにかく表現し難いほど香り高い。そして一口食べれば、香りの時点でこれほどまで上げた期待値を凌駕する味に自然と笑みが浮かぶ。
その料理やデザートは、どれほど綺麗に盛り付けられたものよりもまるで手品かのように思えたほどだった。

ぼくは決してグルメじゃないし、そういった経験値もプロとしては少ない方だと思うけれど、それでも仕事柄フランスの三ッ星にも何度か行ったこともあれば、日本で美味しいとされているお店へ行くこともある。
その中には香り良く美味しいと思うお店もあれば、一口食べて笑みが浮かぶようなお店もあるけれど、ラ・ブランシュさんのように仰け反るほどの香りの良さを経験したことは、これまでの記憶にない。

その香りの良さを例え伝えるのは難しいし単純に比較はできないけれど、それが「どれくらい?」と訊ねられたら「目の前で多めのコーヒー豆をミルで挽いたときと同じくらい幸せな香り」と、いまなら答える気がする。

つづく


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