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万城目学さん 3.

※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

「某所でいいフレンチを見つけたので、日比谷のお店が落ち着いたら久しぶりにいかがですか」

先日とても嬉しいお誘いをいただき、万城目さんと久しぶりに二人会をした。
そういえば前回は、と思ったら丁度一年ほど前になる。月日が経つのは本当に早い。

お会いすると新作の感想を伝えることから会話が始まる。
今回だと「パーマネント神喜劇」。

「あのシーンでは、◯◯◯も出て来ましたね」

「あそこでは、◯◯◯も登場してました」

「ぼくが一番好きだったのは、『当たり屋』の話でした」

感想を伝えると万城目さんは解説だけでなく、どういった経緯でその書籍を刊行することになったのか、などすべて一つずつ丁寧に教えてくださる。
いつも思うことだけれど、これほど贅沢な時間もない。

「そういえば、今回の作品は明らかにトーンが違った気がしたんですが」

すると間髪入れずに「飲みものなんです」。
ファンの方ならおわかりになると思うけれど、万城目さんは「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」や「パーマネント神喜劇」を ”飲みもの” に、前作の「バベル九朔」を ”固い食べもの” に例えられる。
さすが言葉をお仕事にされているだけに、おもしろい比喩を使われる。

 何皿目かの料理が運ばれてきたとき、そこに添えられたソースは、ブルーチーズを使ったものだった。

「あっ、このソース、万城目さんが好きなセロリとフルムダンベールのサンドイッチに使っているソースと作り方は、ほぼ同じだと思いますよ」

いまではスタッフが考えてくれたパンやサンドイッチが多くなったけれど、このサンドイッチは、ぼくが明確な意図と着地点を狙い、それなりに考え抜いて作ったものだった。
そういったことを知らないまま、このサンドイッチを好きでいつも買ってくださっていたのがとても嬉しかった。
ぼくはどのように思いつき、どういった意図や狙いで作ったのかを解説させていただいた。

万城目さんと食事をすると1軒目の店で終わることもあれば2軒目へ行くこともあり、「もう1軒、行きましょう」ということで今回は以前にも連れて行っていただいたバーへ移動し、この日も気づけば4時間ほどずーと話をしていた。
お互いこれといった大ネタを持っているわけでもなく(いや、ご本人による作品解説は大ネタだけれど)、どんな話をしたかと思い返せば、

「なぜ、日本から恐竜の化石が見つかるのか?」

「家族ですき焼きをしたら大変なことになる」

「京都の有名なバーへ行ったときの話」

「職人からオーナーになって行くということ」

「若い作家さんの作品を読んで感じたこと」

「最近、銀座のクラブは景気が良いらしいですよ、という話」

「表舞台と裏方、人にはそれぞれに向き不向きがあるという話」

と、取り留めのない話をしているだけなんだけれど、いつも時間が過ぎるのを忘れるほど楽しくて、とても心地が良い。
ぼく自身が社交的な人間でない故に友人が少ないこともあるけれど、それを差し引いても一緒にいてとても心地が良いとまで思える人は、やはりなかなかおられない。

つづく


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