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油脂の大切さ

フランスのアルザスにいたころ、冬には「ベニエ」と呼ばれるお菓子が屋台などでも売られていて、安くて美味しかったのでよく買って食べていた。

イースト生地を揚げたお菓子で中にジャムなどが詰めてあり、輪っかにはなっていないけれどドーナツみたいなものである。
「ベニエ」という呼称自体は、この揚げパン、揚げ菓子に限ったものでなく野菜、魚、肉などに衣を付けて揚げたものもベニエと呼ぶし、いちごなど果物に衣を付けて揚げたデザートもベニエになる。つまり、ベニエと表記があれば天ぷらのように揚げたもののことを指す。
ちなみに中世フランス語の「buignet(=こぶ)」が語源らしい。日本の天ぷらはそうでもないけれど、西洋料理のあのプクッとしたフリッター、ベニエを思い浮かべると「こぶ」と呼びたくなるのもわかる気がする。

イタリアのパンにピッツァの原型ともいわれる「フォカッチャ」というパンがある。形は丸や長方形などあるけれど、表面にたくさんあいた穴が特徴のパンで、これは焼成前、表面にオリーブオイルを塗り指でピケをして(穴をあけ)焼成時に生地が均等な高さに膨らむようにするためのもの。そしてローズマリーなどの香草と粗塩を表面にふり焼成をする。
このフォカッチャの味を決めるのは、もちろん配合や発酵時間も大切だけれど、個人的には焼成前に塗るオリーブオイルの量が決め手だと思っている。特に天板の形に大きく焼くときなどは、オリーブオイルを塗るというより浸かっているくらいの、もう焼くというより揚げ焼きに近い状態の方が美味しいフォカッチャになると思っている。

パンやお菓子に限らず油脂によって美味しく感じる料理は、枚挙にいとまがない。
先日書いたとんかつをはじめ、エビフライ、メンチカツ、天ぷら、からあげ、フライドポテトがそうだし、ラーメンもそう。素材でも魚や肉は往々にして美味しいとされるものには脂が多い。「脂ののった鯖やサーモン」「中トロや大トロ」「霜降り肉」など。

また、フランスの保存食に使用される伝統的な調理法の中には、揚げる以外にも「煮る」ために油脂を使用するものもある。
リエットやコンフィと呼ばれるものがそうで、これらは80度くらいの低温のラードや鴨の脂などで素材を煮る。また肉に限らず魚介類を低温のオリーブオイルで煮たものもコンフィになる。
仮に油脂が美味しさに貢献しているのであれば、そりゃ美味しくなるだろう、と思える調理法といえる。

フランス料理に限らずオイル系と呼ばれるパスタも美味しいし、パンはそのままでも美味しいけれどバターやオリーブオイルを塗るともっと美味しくなる。
こういったことからも美味しく感じるために、いかに油脂が大切かがわかる。

つづく

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