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経常収支が黒字なら良いのか、という疑問

ぼくが国の損益計算書だと思っている経常収支の「貿易・サービス収支」と「第一次所得収支」。

この貿易収支とは、お察しの通り自動車や服など有形のものを輸出入した収支のことで、よく見聞きする貿易黒字、貿易赤字というのが、これにあたる。
またサービス収支の項目は、以下のように財務省のサイトで説明されている。

輸送:国際貨物、旅客運賃の受取・支払
旅行:訪日外国人旅行者・日本人海外旅行者の宿泊費、飲食費等の受取・支払
金融:証券売買等に係る手数料等の受取・支払
知的財産権等使用料:特許権、著作権等の使用料の受取・支払

つまり、企業が輸出する際の貨物代、インバウンドや反対のアウトバウンドにまつわる旅費や食事代、文字通り特許権や著作権の使用料などの収支のことになる。もちろんGAFAMをはじめとする海外プラットホームへの課金なども、この知的財産権等使用料に含まれる。

第一次所得収支というのが「対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支状況を示す 」とあるので、ちょっとわかりづらい。
これは、海外進出や買収した日本企業の子会社から受け取る配当や利子、日本が持っている外国の株式配当金や債券の利子などのこと。

そしてここで、先述した財務省が公開している超わかりやすい経常収支のデータを引用させていただく。

出典:「令和6年4月中 国際収支状況(速報)の概要」(財務省)(https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/reference/balance_of_payments/preliminary/pg202404.htm

経常収支そのものは、2022年の一時を除いて黒字が続いている(黒色の折れ線)けれど、近年ではそれがほぼ第一次所得収支によるものなのが一目瞭然だと思う。
以前は貿易収支(自動車の輸出など)が日本の経常収支を支えていたけれど、それが完全に第一次所得収支に代わったことがわかる。

ちょっとわかりづらい第一次所得収支だけれど、要するに過去の投資など積み上げてきたものの恩恵で現在は黒字を維持しているという「貿易より海外投資によって稼ぐ」構造に日本経済は変化したことになる。
それもそのはずで、過度な円高、デフレによって多くの企業が海外へ移転したのだからそりゃそうなる。

経常収支の構造は変わったけれど、日本のそれが黒字であることに変わりはない。ところが現在の第一次所得収支頼りの全振りがマズイ状態なのは、ぼくですら想像がつく。

昔のように輸出で貿易黒字が続くと受け取る外貨が増え、それを日本円に交換するため(外貨売り、円買い)円高要因になるとされている。またそれだけでなく輸出が増えるということは、企業の業績も良くなるので国内の雇用が増えるというメリットもある。
ところが第一次所得収支のほとんどは配当や利子なので、その黒字の約半分は外貨のまま海外で再投資されている。日本企業による海外での工場建設や買収が増加していることに加え、そのための資金調達も日本の長い低金利が後押しをしている。

現在話題になっている日銀による利上げがあったとしても、ぼくはどう考えてもその上げ幅は限定的だと思っているし(これも後述するつもり)、仮に利上げによって円高基調になったとしても海外の企業買収が円建てであれば、買収価格が割安なるのでさらに買収は進むとも考えられる。

そりゃ投機筋でなくても、もしぼくが海外進出した日本企業の立場ならやはり海外の再投資に回して日本円に戻そうとは思わない。
円転されないということは円高要因にならないので、やはり今の円安が止まりにくいことに変わりがない。

この5月には、2023年の経常収支が25兆円超の過去最大黒字になったと財務省が発表し、このニュースをメディアも声高に「貿易収支の赤字幅が大幅に縮小した」「黒字は14か月連続」と、こぞって伝えた。
これが円高要因となる可能性もあるとするアナリストもおられるけれど、ぼくは懐疑的に思っている。
きっと財務省は過去最大黒字の経常収支をドヤ、ドヤと思っているかも知れないけれど、その中身は「大幅に縮小した」とはいえ貿易・サービス収支はまだ赤字だし、これも過去最大という圧倒的な黒字は、やはり第一次所得収支だった。

そして、過去最大の黒字を記録しながら未だに円安が止まっていませんよ、と。

つづく






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