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タイガー & ドラゴン

校内暴力が社会問題となった混沌とした時代に、ぼくは中学生になった。

通っていた中学校もご多分に洩れず、なぜか学校にサングラスをしてきている先輩がいたり、多くの男子生徒は流行っていた折りたたみナイフを所持したまま学校へきていた。無論、えんぴつを削るためなどでなく、一種のファッションだったと思う。
けれどそれも、後に木村拓哉さんがドラマで演じ意図せず流行らせてしまったバタフライナイフのような、ちょっとかっこよく見えるものでもなく、柄の部分に虎や龍がデザインされたいかにも昭和を感じさせる代物だった。

いまの時代からは考えられないほど不穏で殺伐とした空気だったはずだけれど、そんな時代の渦中にいたせいか、ぼくらにとってはそれが普通の日常だった。
だから中学へ入学するときもこれといって心配することなく安穏な学生生活を想像していたぼくは、入学初日に憂き目に遭うことになる。

ぼくらの制服は、詰め襟の学ランだった。
他の生徒同様、真新しい学ランを買っていたはず…だけれど、なぜか入学式当日、ぼくの手元になかった。汚してしまったのか、トラブルでもあったのか原因は失念したけれど、とにかくなかった。
そこで「とりあえず今日は、これ着て行きな」と母親から渡されたのは、従兄弟のお兄ちゃんからもらったお下がりの学ランだった。

サイズが結構大きかったのと、襟も高さがあったため首元が少し苦しく感じるのが気になった。
そして若干気がかりだったことが、もう一つ。
学ランの裏地には、派手な「虎と龍」の刺繍が左右に施されていた。
全然かっこいいと思わなかったけれど裏地だから見えないこともあり、まっ、いいかと入学式へ向かった。

学校へ行くと周囲からの奇異な目や同級生たちからの訝しげな視線にも気づいていた。ぼくはこれといっておかしなことを言ったりしたわけでもないことを思うと、理由は学ランしかなかった。
そして否が応でも上級生らの視線が気になる。
ぼくはただならぬものを感じたけれど、気づかない振りをしてやり過ごすことにした。

下校するころになって案の定、数人の上級生からぼくは呼び出される。
この時期の1歳差は大人になってからのそれとはまったく違い、おじさんのような2年生複数を相手に、ぼくが冷静に対処できる術など知ろうはずもなかった。

ついこの前まで、ぼくは小学生をやっていたのだから。

つづく

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