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万城目学さん 2.

※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

万城目さんにお会いすると、大抵これまでの作品のお話を聞かせていただく。
それは物語の解説だけでなく、舞台となった場所のことや取材での裏話などもあったりで、読者としてこれほど贅沢な時間もない。

もちろん作品のことだけでなくうちの店の話もするし、万城目さんがデビュー以前に会社員をされていたころのことや何度もコンクールに応募されていたころのこと、仲良くされている湊かなえさんや京極夏彦さんといった他の作家さんのこと、そしてご家族や子育てのことなど多岐に渡るけれど、その中でもいつも必ず話題に上るのがゲームの話。

万城目さんのファンの方なら周知かと思うけれど、もうマニアを超えるほどの愛好家で、ゲームに対するこだわりを語る万城目さんは小説の話以上の熱量で目をキラキラと輝かせてられる。
新しい椅子を買いに行かれたときも「選ぶ基準が小説の書きやすい姿勢よりもゲームのしやすい姿勢が優先なんです」と冗談とも本当ともつかない顔をしながらゲームのコントローラーを両手で握る体勢をされていた(本当な気がする)。

最近は子供さんたちを驚かせるために手品に凝られているようで、ぼくも前回、今回と二度に渡り食後に披露していただいた。
タネがまったくわからず悔しいほどお見事な腕前だけれど、それよりもお店のご主人とぼくの不思議がっている様子を見ては、子供のように嬉々としてそれまで以上に饒舌になっちゃう万城目さんを見ていると、騙されたこちらが微笑ましい気持ちになってくる。

小説家としての才能や人気はいま更ぼくが語るに及ばないし、万城目さんのことを 一般人と括るのもはばかれる。
やはり著名人であり少数に属する人に違いないけれど、そういった部分を除いたぼくの知る万城目学さんという人は、ゲームとお酒がとても好きで、気さくすぎるほど気さくで、関西人ということもあってか話のどこを切り取ってもおもしろ可笑しくて、派手さや飾り立てることのまったくない自然体な人で、そして子煩悩なお父さんといった普通の人以上に普通の人という好印象しかない。

そんな万城目さんに、ふと訊いてみた。

「万城目さんが会いたいと思う人には、もう会えるようになりましたか?」

ぼくの質問に一瞬、思案顔をされこう答えられた。

「ぼくは・・・あまり欲とかがないんだと思うんですよ」

“だと思います ” と、ぼくは内心つぶやく。

それでも京極夏彦さんとの対談が決まったことをとても嬉しそうに話されたり、中学生のころから大ファンという超大物ミュージシャンの方と食事をご一緒できることになった話を、ゲームのこだわり以上に目を輝かせながら話していただいた。

「以前、ラジオの番組に呼んでいただいたことがあって。
そのときにメールアドレスの交換をさせてもらっていたので、思い切ってメールでお誘いしてみたんですよ。そしたら返事が来て。
もう、どこのお店にしたらいいのかわからなくて。
それで最初だけはお店を決めてもらおうと思ってメールでお願いしたんです。『普段使いされているお店を教えていただけますか』って」

「そしたら〇〇〇ホテルにしましょうって返事がきて、ホテルのHPを見てしまいましたよ。
あれ、何て言うんでしたっけ?
そう!ドレスコードってHPに書いてあって。
ドレスコードのあるお店なんて初めてやわって思いました(笑)
でもそれが普段使いなんですよね、きっと。すごいですよね・・・」

目の前で話されているのが 、あの万城目学さんであるということを一瞬忘れそうになる。

「西山さんも、これまでにいろんな方に会われているから気づかれているでしょうけど、本当にすごい人ってまったく偉そうにする人いないでしょ?」

”はい、その通りですね。万城目さんご自身がそうですよ” と、ぼくは内心可笑しくて仕方がなかった。

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