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『小さくて強い店』について考えてみた 10.

※こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

1つめは、とにかく取捨選択してあらゆる面をシンプルにする。
あれもこれも作りたいという職人としての衝動を抑え、パンの種類を絞る。かなり絞る。
人員がない以上、製パンの工程を並行して進めることが困難なのだから、種類を減らしパンそのものだけでなく工程もシンプルにして長時間労働を回避する。
これが可能なのであれば(成立するのであれば)、今度は他にも思い浮かぶメリットがたくさんある。

通常のパン屋さんの様に多くの材料を持たなくていい分、副材料などを抱える場所を節約できるし管理も容易になる(棚卸しなど)。
かさばり場所を取る包材の種類もかなり少なくなると思われるので、これも管理が容易になる。とにかく無駄になりかねないこういった在庫リスクを下げることができる。
また、工程やオペレーションがシンプル、少ないということは人員が少なくて済み、それだけミスやロスも減ると思われるし設備がシンプルということは初期投資が少なく厨房面積も小さくて済むということだからまさに小さなお店向きだとも思う。
商品構成によっては「一般的なパン屋さんをするために必要な設備」だって、すべてを必要としないかも知れない。

これらに加え、仮にお店が上手く行き店舗を増やす機会があった場合。
すべてがシンプルなので出店に必要な面積も小さくて済み、相対的に場所を選ばない。また必要な人員も少数で済むので確保も容易になる。
少し考えれば他にもまだまだメリットはあると思う。
ここに挙げたものは、ハンバーガー屋さん、ピザ屋さん、パスタ屋さん、ドーナツ屋さん、とんかつ屋さん、お蕎麦屋さん、牛丼屋さんといった専門店(単品商売)が強い理屈と同じといえる。

こういった専門店ほどではないけれど、98年に最初の店をはじめたとき、ぼくはこんなことを考えていた。
当時大きなパン屋さんはもちろん、街場にある小さな個人経営のパン屋さんはどこもクロワッサンやデニッシュ、あんぱんやクリームパンといった菓子パン、食パンからバゲットなどのフランスパンまで種類も数も多くのパンを焼かれていた。
ぼくのお師匠さんのお店もそう。
当時は「パン屋は100種類くらいは必要」なんてことまで常識かの如く話す方も多く、それが普通のことだった。
ぼく自身、何の疑問も持たず最初の数ヶ月間はあれこれ作っていたけれど、売れなくて毎日パンを捨てていたある日、ふと思うことがあった。

売上は必要だから棚は埋めないとマズイけれど、本当にこんなにも種類が必要なのか?既にこれだけパン屋さんが多いのだから何でも揃うのは大きなお店に任せ、人材も資本力もないぼくは自分が得意なことだけに絞った方が良いのではないか。

そう考えたぼくはオープン当初やっていた食パンをやめ、デニッシュや菓子パンなども極端に減らすことにした。
このとき、お師匠さんからは「食パンのないパン屋なんて成り立つわけがない。絶対に無理だし、店潰れるからやめとけ」とアドバイスをされている。
他の方からも「あんぱんも食パンもないパン屋なんて、イチゴショートとシュークリームのないケーキ屋みたいなもんや」と嘲笑されたこともあった。
ところがこのあんぱんも食パンもなければ、菓子パンやデニッシュもろくにない店は結果的に成立することになった。

技術があったというよりも時代が味方してくれたのだと思う。

パン屋さんとしては種類が多い方がお客さんに喜んでもらえると思うし、それが少ないというのは一般的なパン屋さんとしてはリスクの一つかもしれないけれど、ギリギリの人数でやろうとするのであれば仕方がない。
無理に種類を増やし早々に売り切れを起こしたり、身体を壊したのではそれこそ本末転倒になりかねない。
やはり、ぼくなら種類を絞る代わりに数を作るようにして、できる限り売り切れを起こさないようにする。

つづく



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