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作家吉田篤弘の断片

 作家吉田篤弘が主催する装幀家ユニットのクラフト・エヴィング商會のことを教えてくれたのは染織家の友達だ。以来、ときどき吉田篤弘の作品を読む。
 小説といえば小説、でも読み慣れた物語とは少しだけ違う——並行して伸びる線路のように違う作品は、いつ読んでも不思議な浮遊感がある。

 吉田さんは僕と2つ違いの同世代。
 同じ東京生まれで、きっと同じような景色を見ながら育ってきたはずだ。
 作品中に出てくる景色や音、雰囲気、佇まいはいつかどこかで目にし、耳にしたような懐かしさがある。それは決して普遍的なものではなく、時代の峡谷に吸い込まれていつの間にか消えてしまったような、想像だけでは再現できない代物なんだと思う。
 今日は吉田さんの『ぐっどいゔにんぐ』を再読していた。
 自ら「断片」と呼ぶものを集めた不思議な本だ。
 一つの物語、一篇の詩として成立する以前の状態のもの、数行からたった1行で終わるものまで、これから芽を出し茎を伸ばす前の段階の短い文章ばかりが集められている。
 率直にこの本の未完成度合いは僕には心地よい。
 同じようにいつも断片ばかりを作り出している自分としては、これを真似ずにいるのは惜しく感じた。それをするにはnoteは都合がいい。
 完成形は見せない。どこまでも断片。完成してしまった時には失われてしまう「「面白さ」「可能性」「孤独」「記憶」「自由」」(前書きより)が残っている状態で固定する。
 面白そうだ。断片だからこそ伝わるもの、見出せるものは間違いなくある。

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