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ある日突然、口座の残高が4000万円増えていたらどうする?

 基本、時事ネタへの異議申し立て等々は書かないことにしようと決めて始めたのだけれど、某町の支援金の送金間違いの事件の現実味のなさに想像が掻き立てられて困ってしまった。

 受け取った青年は今夜逮捕されたらしいが、電子計算機使用詐欺容疑というのもなんだかしっくりこない。紙幣に名前が書いてあるわけじゃなし、自分の口座に入っていた金を引き出して何に使おうが自由というのが原則だし。
 状況は「庭を掘ったら現金が1億ほど出てきました」というのと同じで、誰がどんな理由で埋めたにせよ、掘り出した金は土地の所有者のものになる。
 ただ、今回は金の出所がわかっていたので、使ってしまえば訴追される恐れはあった。でも何もわからないうちに使ってしまって、「どこかの親切な人が振り込んでくれたのかと思いました」と善意取得を主張されたらどうなったんだろうかと想像してしまう。
 誰かを騙して4000万を手に入れたわけでもないし、脅したわけでもなく、勝手に間違いを冒して、勝手に振り込んで、「悪いのは貴様だ」というのもなかなか無茶に思える。世の中は「返して当然」という風潮だけれど。
 さすがにオンライン・カジノはいかんだろと思うが、あれもなんだか腑に落ちない。真相はこれからわかるんだろうけど、入れ知恵された苦しい嘘のようにも思える。

 騒動の渦中にある町の人たちには申し訳ないが、オンライン・カジノなんてしょーもない使い方じゃなかったらと考えると、今回の騒動はなかなか結末が読めない面白さがある。
 仮に振り込まれた人間がウルトラ級の善人で「曰くの知れないお金が入ってきたけど、受け取る理由がないので、ウクライナ大使館に寄付しちゃいました」とか「食糧支援に使ってもらおうと思ってWFP国連世界食糧計画に寄付してしまいました」なんてことになってたら、どうなっていたんだろうか。やっぱり「手違いだったんで、4000万返して」というんだろうか。背に腹は変えられないとはいえ、全世界レベルで恥を晒すことになるわけで。

 自分の口座にある金は銀行であっても勝手に動かすことはできないし、詐欺等で入金させたわけでもないというのがミソだ。
 自分は何一つ悪いことをしていないのに、勝手に金が振り込まれた。さて、この金をどうする?という状況で、物書きは何をどう空想するか。現実に試されている気さえする。

 「口座に入った金は使いません。それまでに残っていた残高分は引き出して、この口座には手をつけません。その代わり返金もしません。元をただせばあなた方の間違いがすべての原因ですし」

 これも不謹慎ながら面白い。
 ちゃんとその年の確定申告では雑所得として申告して、馬鹿高い納税もしちゃったら、これまた実に面白い。

 全国津々浦々の行政機関にふるさと納税をしてしまうというのはどうだろう。
 一市町村あたり10万のふるさと納税でも400以上の自治体にバラ撒ける。

 「自分のためには使ってないので、返金して欲しければ400箇所の市町村に自分で頭下げてね。そうそう、元は町の金でもらった返礼品なんだから、それも返せというなら返すけど、全部生肉とか果物ばかりだから、よろしくね」
と言われるとか。
 役場で食ったら「税金でもらったものをお前らが勝手に食っていいのか」と言われ、捨てたら「食べ物を粗末に扱っていいと思ってるのか」とそしられ、どっちに転んでも指を差されることになりかねない。

 それもこれも全部、ろくなチェック機能も働かないまま4000万もの金を誤送金したのが悪いわけでねえ。
 そういう起こらなかった現実があまりに小説めいていて、想像がハリセンボン並みに膨らんでしまうのでありますな。
 実に滑稽ですねえ。

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