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断片小説集 1

南の海のどこかにある小さな島では、1年に1度だけ砂浜に物語の破片が打ち上げられるらしい。
その日が満月と重なると、大量に打ち上がった物語の破片が騒めく声で砂浜が満たされるのだという。
その島は今、とある著名な小説家の私有地になっているそうで、毎年、行き詰まった小説家が上陸を試みては捕まり、強制送還されているのだそうだ。

(「物語の破片が打ち上がる砂浜」)

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その日、返ってきた答案用紙には鏡文字で100点と書かれていた。紫色のインクだった。答案を返す先生は今日は無口で、やけににこにこと笑っていた。隣の子の答案用紙はいつものように赤いペンで点数が書かれていた。そういえば先生は今日、後ろのドアから入ってきた。窓からの光も当たってないのに、先生のメガネが光ったような気がした。そのことに誰も気がついていない。

(「なにかのプロローグ」)

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いつものようにウインナーコーヒーを一杯だけ飲んでからバーの外に出ると、路肩に止めておいたオートバイがなくなっていた。
オートバイは数メートル動かされ、そこで完全に分解されていた。
分解された部品は敷かれたブルーシートの上に標本のように並べられ、何ひとつなくなっていないことが一目でわかった。
私は再びバーの扉を押した。
今度はウイスキーにしようと思った。

(「秋の夜の出来事」)

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古びた町の古びた雑貨店では虹色になるものばかりを売っている。その日、私が買ったのは泡が虹色になるシャンプーだった。
容器に貼られたシールには「髪を湿らせ、小さじ一杯分ほどのシャンプーを髪に付けてください。泡立て続けて2分経つと泡が黄色になります。4分続けると緑色に、6分続けると鮮やかな赤に変わります。10分以上は続けないでください」と書かれていた。8分経つと何色になるのかは書かれていない。

(「異常気象商店街」)


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