僕の気になる彼女は(イズミVer.)【短編小説】1300文字
火曜日と木曜日は部活が終わった後に自主練をする。シュート練習だったり、個人技を磨いたり。
ベンチ入りメンバーには選ばれたから、そこから固定レギュラーを目指している。ライバルは同じポジションの林だ。あいつはそつなくこなすタイプで残って練習することはしない。
帰りは駅前の大型書店でコミックや雑誌、実用書や専門書をチェックしている。
これは後付けだ。駅までバスに乗る口実だ。
いつも通り自主練で遅くなり、バスで彼女がやってくるのを待っている。
木曜日は彼女が部活で遅くなる日だ。
「おつかれさま。」
彼女が座ったと同時にバスが発車した。
毎度のことだが、前に座っている彼女を振り向かせるような話題が思いつかない。こんな時、木村ならどんな話をするだろう。
「もうすぐ夏休みだね。サッカー部は校内合宿は前半?」
彼女が振り向いた。
「あ・・・うん。一週間の補講が終わった後すぐ。」
「じゃあうちはサッカー部が終わった後からだ。中学の時は合宿ってなかったから楽しみで。」
彼女が前を向いた。今日はこれで終わりだろう。
駅に着くと、彼女は電車の時間があるようで駅の構内へと走っていく。
「またね!」
僕は書店をいつもチェックするルートで周る。スポーツ関連の棚で立ち止まり、バドミントンの本を手に取ってページをめくる。閉じる。
何をやっているんだ。
彼女のことが知りたい、でも何を話していいかわからない。
彼女の名前も自分からは聞けていない。木村から聞いたんだ。
僕はバスで来た道を戻った。
次の日の昼休み、隣のクラスにいる木村のところに行った。
「珍しいじゃん。イズミから来るなんて。」
「・・・あのさ、津田さんの名前とかクラスってどうやって知った?」
「は?あー、朝に見かけることあるんだよ。俺いつも遅刻ギリギリのバスだからたまーにだけど。で、前にイズミが好きだって言ってたから話しかけてみた。」
「何て言って話しかけたんだよ!ってか、そんなこと言ってないだろ・・・。」
「そうだっけ?何て言ったかなー、忘れた。あー、今朝も見たぞ。ほら、アイツと津田さんが一緒に登校しててさ。でも、バスで一緒になっただけみたいだわ。」
木村にアイツと呼ばれたやつを見る。机に突っ伏して寝ているようだ。
「イズミさぁ、自主練しながら待ってるんだろ?で、一緒のバスで帰ってるんだろ?しかも乗り過ごして駅まで。」
こいつエスパーか!?
「イズミを駅の書店で見たって前に女子が言ってたから。何か進展あった?」
言葉が出ない。何もないんだ。外部コーチが来るからっていう理由で帰りが遅くなる日をたまたま聞けただけだ。
「イズミのことだから、名前呼んでもないんだろ。俺、言わなきゃよかったか?でもさ、読んでみたら?『何で知ってるの?』ってなったら俺のことネタにすればいいじゃん。お前、イケメンなんだからさ、『私に気があるのかしら?』って思わせればいいじゃん。」
昼休みが終わるチャイムが鳴った。
「津田さんモテるねー。見た感じ普通そうだけどなぁ?」
机に突っ伏していたアイツが起きて、目が合った。
ちょっと悲しそうに僕を招かれざる侵入者のように見ている。
明日は土曜日。次に会えるのは火曜日。
5限目が終わったら津田さんのところに行こう。
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