【小説】ピエロなシエロのおかしなおはなし Part.21
〜歪んだレシピ〜
小さな小鳥の背中を追いかけてシエロたち一行はすでに、街を抜け平原を越えてメリゼル砂漠上空を飛んでいました。
箒に乗って空を飛ぶということはなんとも刺激的で、案外慣れると心地の良いものです。
それにシニーが魔法で寒さやら風やらを和らげてくれたので快適に飛ぶことができます。
上空から見る街や森は見ていて壮観なものではありましたが、一度砂漠に立ち入るとどこまでも続く砂の平原ですぐに退屈してしまいました。
夜の砂漠はひっそりと佇み、寒々しい風がビュービューと吹いています。
魔法が弱くなってきたのでしょうか。
シエロは月明かりに照らされた自分たちの影を見ながら体を震わせました。
「ど、どこまで行くんだろう」
少し前を飛ぶ老婆の背中に問いかけます。
「こんなとこまで来るなんて、やっぱりおかしいわ」
シエロの声が震えていることに気がついたのか、シニーはゆっくりとスピードを下げシエロの方まで下がってくると、暖を取る魔法を再びかけてくれました。
ブルブルと箒にしがみつく手が少しずつ優しげな光に包まれていきます。
「ありがと。・・・おかしいって?」
ホッと一息ついたシエロは老婆の横顔を眺めながら言いました。
初めての箒飛行の割には上手に乗れているようです。
辺りを眺める余裕ぐらいはあります。
さすが、ピエロといったところでしょうか。
はぁっと深いため息をついた老婆は寒くなんてないはずなのに、ブルブルっと体を震わせました。
「やっぱりレタシモンに違いないわね。こんな砂漠を通るなんて、変態のすることよ」
二人の目の前を飛ぶ真っ白な小鳥は時折二人のことを振り返りながらも、目的の影を追って必死に羽ばたいています。
「オレたちだってこないだ通ったじゃんか。それに、今も」
箒の先にぶらぶらと身を揺らしながら、パタムールが面白がるように声を上げます。
「・・・例外もあるわね」フンッと鼻先を高く上げた老婆はタバコを吸い始めます。
さすが魔女。両手を離してもへっちゃらの様子です。
「もしかしたらあの変態の住処も見つけられるかもね」
ふぅっと美味しそうに吐いたタバコの煙は風に揺られ、すぐさま後方へと消えていきます。
魔女はタバコを吸いながらも話を続けます。
「まったく、嫌になるわ。あんな奴がいつまでものさばっていたらこっちは商売上がったりだもの」
どんな商売をしているのかはさておいて、なぜ住処を見つけたいのでしょうか。
シエロは疑問に思ったことをそのまま口にしました。
「住処を見つけてどうするっていうんだ?」
その問いにニヤリと意地の悪い微笑みを浮かべた老婆は言いました。
「もちろん、魔法でうさぎにしちゃうのよ。もうこれ以上悪さができないように、ね。あんな奴がいたら、私みたいな美少女はおちおち一人で外を出歩けないもの」
「ウヒョー、魔女は怖い怖い」とパタムールが目をまん丸としています。
シワシワの顔でそう言い放った魔女に呆れたものの、『心臓喰らいの悪魔』の悪行を止めるというのは立派な志です。
それに魔女としてはそういった悪い魔法の使い方、というものは許せないのでしょう。
シエロは苦笑を噛み殺しながらまたまた素朴な疑問を口にしました。
「前にも聞いたかもしれないけど、『心臓喰らい』ってほんとに心臓を食べるのか?」
タバコを吸い終えた老婆は落とさないように慎重に口の中に放り込むと、んーと少しばかり考え込む素振りを見せます。
「さぁね、知らないわ。けど、悪い魔法であることは間違いないわね。さっさと助けに行かないと、愛着障害の変態の餌食になるわ」
呆れた調子でなんだか恐ろしいことを口にしています。
「なら、白馬の王子様が助けに行かないとな。・・・ボロ箒の、か」
パタムールはニヤリと笑いながらシエロの首を叩きました。
フンッと鼻で一蹴したシエロはふと空を見上げました。
そこには怪しく光る月があり、なんだか不吉な予兆のように感じられます。
「なら、急がなきゃな」
自然と箒を握る手に力がこもります。
延々と続く砂漠の上に、シエロたちの影が颯のごとく通り過ぎていきました。
続く。