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そろそろ野菜酵素なるもの止めませんか~酵素について語ろう①

 何かあるとエセ科学がはびこるのは昨今のコロナ禍でも痛感されている通りかと思いますが、こと食品においては非常に正確性に欠ける情報がまるで真理かのように謳われることがしばしばです。

 これは食品という題材があまりに身近すぎて、誰でも語れるものだからだと思っています。ご飯を食べない人はいないし、何らかのこだわりは多かれ少なかれみんなあることでしょう。

 その中には、自分にとっては良いものであったという体験や、宗教、最近ではヴィーガンやベジタリアンのような信念、その他色々なものがあるので、発信しやすいテーマなんだと思います。

 正直仕方ないところはあるので、僕はあんまり科学で殴るようなことはしません。
 実際科学の限界はあって、マクロ的に論文で「これは大多数の人に良い食品です」ということはあっても、ミクロで「でもあなたには毒です」みたいな事実は成立するからです。

 食品より厳格なエビデンスを求められる薬の試験においてさえ
「ワァ……プラセボのデキストリン錠剤でなんか回復してる……」
みたいな事案はあるわけです。
 だからこそ専門家ほど食品の効果について断言はしないものだと思いますし、そこに対して明らかにおかしいと思っても叩きすぎることはないと思います。

 特にそれが相手の信念の問題だったりすると、もうコミュニケーションは成立しないので。

ただしそれが、専門外のものだったらな!

屋上へ行こうぜ……
 ひさびさに……
 キレちまったよ……

 ちょっとだけ身の上を話します。

 私は浪人時に酵素を勉強することを決意し、大学入学前から入る研究室まで決定し、実際にその研究室で論文を提出し、就職後も酵素技術をベースに研究開発をしてきました。酵素に携わって15年くらいになります。

 だからなんか、我慢できませんでした。大人げない。申し訳ない。

 言い訳をさせてもらうと、「野菜酵素」なるものには昔からメチャクチャ腹が立っていたんです。
 意味わかんないから。

 ただ、そもそも普通の人は「酵素」についてほとんど知らないのも事実だと思います。ご飯噛み噛みしてたら甘くなるよね~、口の中でお米のでんぷんが分解されて糖になるんだよ~。くらい?
 アミラーゼ知ってたら嬉しいレベル。

 なのでいい機会に、高校生でもわかるくらいで酵素について書いていこうと思います。あのツイートをぶん殴りながら。

そもそも酵素ってなによ?

 一言で言うと、タンパク質から出来てる触媒です。

>動物性タンパク質を取らないでどうやって生きてきたのか知ってる? それが『酵素』

 酵素が!
 タンパク質から!!
 出来てるんだよ!!!

 屋上から叫びました。聞こえていますか?

 触媒は化学好きじゃないとちょっとわかりにくいかもしれませんが、化学反応を促進する物質と捉えてもらっていいです。上の方で言った「でんぷんが分解されて糖になる」例で言うと、でんぷんは糖が連なって出来ていますが、そこを分解する反応を酵素が促進してくれるんですね。

 高校化学では消化のところでアミラーゼやペプシン、トリプシンなどを習うので、酵素を消化酵素と捉えてる人を見かけますが、酵素の働きはそれだけではありません。人間で言えば、体内の化学反応のほとんどは酵素によって進んでいる、と捉えてもらって結構です。

 みんな大好き遺伝子の話も、遺伝子が活性化する→活性化された遺伝子にコードされたアミノ酸が生成される→生成されたアミノ酸が連なって酵素になる→生体反応を調節している、というルートなのです。
 体内ではただ生きているだけで常に何千種といった化学反応が行われ、その化学反応を何千種といった酵素が関わっています。

 そして酵素の最大の特徴は、
①限られた特定の物質に対する化学反応を
②特定の条件下において 
 急速に進める
、というところにあります。①を基質特異性、②を反応特異性といいますが、詳細は割愛します。

 長々と書いてきましたが、一言で言えば、酵素はタンパク質から出来ていて、非常に緻密な条件で化学反応を触媒しているということです。

酵素を食っても何にもなりゃしねえよ

 さきほどの段落に書きましたね。
 酵素はタンパク質で出来ています。
 食べたら?
 消化されてアミノ酸になります。おしまい。

植物性タンパク質を食べて『酵素』を食べると体内で動物性タンパク質に変性するのよ

 3つぶん殴りたい。

 1.植物性タンパク質を食べて『酵素』を食べると

 タンパク質と酵素を分けんな。

 2.体内で動物性タンパク質に

 アミノ酸になるんだわ。胃で分解されるからさ。あ、分解されたアミノ酸から筋肉が出来ることを動物性タンパク質と言っているなら100万歩くらい譲って100点満点の0.3点くらいあげてもいいけど、「豚肉食ったら豚になる」と同じくらいのレベルのこと言ってると思います。

 ちなみに、酵素って超微量でバカみたいに効きます。
効果を実感出来るのは、中華あんかけかな。あんかけを食べてたら、最後シャバシャバになるでしょう。それは箸とかスプーンについている唾液の中に含まれている程度のアミラーゼが反応したからです。あれくらいの量で効きます。なので、食品に仮に酵素があったとして、ごくごく微量しか含まれていません。

3.変性するのよ

 これが一番許せねェーッ!
 よく知らないのがガンガン伝わってくる文章の中に、変性という酵素特有の特徴を間違った文脈で使ってきたのが一番許せない。あと最後の絵文字も許せん。

 変性とは、酵素の形が変化することを言います。酵素がタンパク質で出来ている話はもう耳タコでしょうが、その構造は非常に緻密な立体構造によって成り立っており、それが上の方で述べた基質特異性と反応特異性に寄与しています。

 この立体構造は熱やpHなどにより変化します。これを変性と言います。多くのケースでは変性すると反応性が悪くなったり、反応性が無くなったりします。

 だから、単に変わることを変性っていうんじゃないのです。その酵素の機能が変化する(多くの場合低下する)ことを言うのです。あー腹立つ。

『酵素』とは漬物のこと!

 タンパク質から出来ている触媒のことです。

野菜酵素ってなんなんだろう

 本件どれだけ僕がイライラしてたかは伝わったと思いますが、こうした言説が出てくる背景に野菜酵素なるものがあると思ってるんですよね。
 野菜酵素ってなんなんだろう。

 こういうのとか見ると、野菜を発酵させたものをなんか野菜酵素って言ってる節があるのよね。
 それって青汁じゃないの?

 だいたい、植物のタンパク質量なんてたかが知れてるわけで、しかも野菜に含まれている酵素(ごくごく微量)を摂取したところでそれはアミノ酸になるだけで、何の効果もないんですよ。「酵素が足りてるか心配」(これもちなみにクソ意味わかんないですからね)とか言うんだったらステーキ食えステーキ。
 お通じが良くなった? 多分食物繊維のおかげだと思うよ。

 ただの発酵物に「酵素」なんてつけたからおかしくなってる。大体酵素って「発酵の素」と思われてたから酵素なのであって、それ「発酵の素」じゃなくて「発酵した後の生成物」じゃん。

酵素はメチャクチャ面白いし奥が深い

 ちなみに、酵素の話ってメチャクチャ面白いです。僕に酵素の話させたら何時間でも語ります。なんたって生体活動にも、産業用途にも、ありとあらゆるところで酵素は活用されているからです。
 あなたが食べている食品も、酵素反応を使っているものがほとんどです。

 あーすっきりした。
 この辺りもいずれnoteで書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

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