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「リッパー・ストリート」で19世紀末の倫敦を浴びよう(※ネタバレなし)

リッパー・ストリート(字幕版)
世界中で知らない人はいない未解決事件"切り裂きジャック"のエッセンスを巧みに織り交ぜながら、巧妙に練られたストーリーラインが魅力のテレビシリーズ。

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 1989年のイーストロンドン、ホワイトチャペルを舞台にした連続警察ドラマ。
 切り裂きジャック事件が収束して半年後から始まるお話で、切り裂きジャック事件の捜査は直接関係しないのですが、「ようはそのへんの時代」という、舞台装置としての存在感はさすがのネームバリュー。
 S5まであって、今はS4を視聴しはじめたところです。

 メインの登場人物は3名、エドムンド・リード警部補、その部下で軍人あがりのベネット・ドレイク部長刑事、アメリカ人検死医のジャクソン大尉。ホワイトチャペルで起こる様々な殺人事件をこの3人が解決していく……というストーリーなのですが、何せ舞台は19世紀末。連絡手段は人が走るか電報か手紙、移動手段は馬車か蒸気機関車、証拠保全もいい加減なものだし、指紋照合もまともにできない、当然町に監視カメラなどあるわけもなく、写真はあってもモノクロで画質も悪い……という、今の犯罪捜査とは全然違う状況。容疑者に自白させるための暴力もまかり通っているし。今まで見てきたミステリードラマとは全然違って、ある意味新鮮でした。謎解きがメインではないのでミステリーというよりはサスペンスかも……?
 ジャクソン大尉の検死も素手ですからね! まだまともな衛生観念のない時代だから仕方がないとはいえ、素手! 死体の臓器を素手で!! いろんな感染症が気になって仕方がないよ……!

 全体的に陰鬱な雰囲気が流れていて、19世紀のイーストロンドンに漂う閉塞感、貧困と荒廃の匂いが画面から生々しく漂ってくる。19世紀末英国の服装や調度品、街並みなどを見られるのは楽しいのですが、容赦なく血や臓物や汚物も映すので、そういうところも雰囲気作りに一役買っているのかもしれません。
 そもそも主人公のリード警部補が暗い。これは理由があってのことではあるのですが、滅多に笑わなくて基本真顔。正義と公正と利他の人ではあるけれど、時々とんでもなく暴走する。ただ、ジャクソンとドレイクはめちゃくちゃ信頼してるのがいい。あとこの俳優さんの声すきです。よく響いて気持ちいい。
 ジャクソン大尉は酒好き女好きのダメ人間なのですが、どうも憎めないんですよね。この人もいろいろ過去にあって、娼館の女主人スーザンとの関係もこじれにこじれて……という感じなのですが、検死の腕は一級で、本人もそこにはプライドを持っている。リードのことはなんだかんだ友人だと思っているし信頼している。
 ドレイクは当初リードに従う暴力担当の狂犬という感じだったのですが、シーズンを経るごとにちゃんと自分を確立して、自立していくんですよね。娼婦のローズとの関係も、どうなることかと思ったけど一応収まるところに収まった……のか? 誠実さは伝わるので、幸せになって欲しいけど、どうかな……結構容赦なく人が死ぬからな……。
 そうそう、このシリーズ本当に呆気なく人が死ぬんですよ。ゲストキャラだけじゃなくて、準レギュラーが容赦なく死んでいく。犯人も割と死ぬ。そもそも殺人罪=死刑(hanging)だし。その命の儚さがやはりこの時代ならではで、それでも大切な誰かの死に対する悲しみの強さは決して今と大きく変わるわけではないので……。価値観も何もかも違っていても、人間の根本は変わらないんだよな、とふと思うなどするのでした。

 あと、当時のイギリスが直面していた様々な問題も取り上げられています。先ほど少し触れた貧困や孤児の問題もそうですが、帰還兵のPTSD、移民問題、アイルランド問題、ポルノ、女性の権利、同性愛、麻薬、宗教紛争……あれ、これ結構今にも通じるのでは? と途中で気付いたりして。
 勿論当時と今とでは状況は全く違うし、さすがに当時と比較すれば改善しているのは間違いないと思う、思いたいのですが、それでも諸問題は解決されてはいないよなあ、という。制作側がどの程度意識して作っているかはわかりませんが、見ている側としては19世紀末のイギリスを通して現在を見直すいいきっかけをくれたなあと思いました。結構いろいろと考えさせられた……。

 救いのないエピソードもあるし、ほぼシリアス一辺倒ですが、とはいえそこまで鬱々しくないのは絶妙な匙加減だと思います。まあ全体的に陰鬱は陰鬱だけど……。あまりにも失いすぎではと思ったリードにも一応救いはあったし。
S4も引き続き楽しみたいと思います。