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【和訳/解説】 Phoebe Bridgers - Scott Street

Phoebe Bridgers の1stアルバム『Stranger in the Alps』より Scott Street の和訳です。


Phoebe Bridgers
(フィービー・ブリジャーズ)

幻想的でどこか懐かしい-
そんな稀有な音楽性とアイロニカルで繊細な歌詞を武器に、世界中に多くのファンを擁するカリフォルニア出身のSSW。
彼女の才能は数多くの同職者も魅了しており、これまでに Taylor Swift, SZA, The 1975 といった名だたるアーティストとのコラボも経験している。

また、2018年にJulian Baker、Lucy Dacusと結成したスーパーバンド boygenius の活動でも知られており、今年のグラミー賞では7部門にノミネートされるなど非常に高い評価を得ている。

先述した通り、現在のインディーシーンではもはや「敵無し」と言っても過言ではないPhoebe。
今回紹介する Scott Street はそんな彼女の代表曲の一つであり、元恋人でバンドメンバー(ドラマー)の Marshall Vore と共作した数少ない曲の一つでもあります。

そんな今楽曲でPhoebe、そしてVoreが描いたのは『疎外感』と『孤独感』について。

故郷への帰省、昔の恋人との遭遇
そんな何気ない瞬間の中で触れた様々なものの変化、そしてそこで感じた孤独や淋しさを歌った美しくも切ない一曲です。

後方に解説・注釈、Spotify/Apple Musicのリンク等も用意していますので、ぜひご覧ください。

※堅苦しい訳やコーラス部分の和訳を繰り返し使うなどの形式が私自身あまり好きではないため、一部噛み砕いた表現や意訳を含んでいます。
予めご了承ください。


歌詞

Walking Scott Street
Feeling like a stranger
With an open heart, open container

I've got a stack of mail and a tall can
It's a shower beer
It's a payment plan
There's helicopters over my head

Every night when I go to bed
Spending money and I earned it
When I'm lonely, that's when I'll burn it


Do you feel ashamed
When you hear my name?


I asked you, "How is your sister?
I heard she got her degree"
And I said, "That makes me feel old"
You said, "What does that make me?"

I asked you, "How is playing drums?"
Said, "It's too much shit to carry"
"And what about the band?"
You said, "They're all gettin' married"


Do you feel ashamed
When you hear my name?

Anyway, don't be a stranger
Anyway, don't be a stranger
Don't be a stranger...

和訳

久しぶりにスコット通りを歩いていたら
自分が「よそ者」になった気がしたの
小さなことでも傷ついてしまうのは 
きっと全部お酒のせい ※1

読まず終いの手紙達に、転がった一本の空き缶
ビール片手にシャワーを浴びて
考えていたのは家賃のこと
頭上では次の悩みを乗せたヘリが飛ぶ ※2

毎晩ベッドに潜り込んでは
要らないものを売り買いしてる
馬鹿らしくても、孤独な時はこうするしかないの

恥ずかしく思う?
私の名前を聞いた時って

私は訊ねる
「妹さん元気にしてる?」
「大学卒業したんだってね」
「そういうの聞くと歳とったなあって思うよね」

「別に何とも思わない」と、あなた

私は続ける
「それじゃあドラムはまだやってるの?」
「続けるのは大変だよね」
「じゃあさ、バンドのみんなは元気にしてる?」

もうみんな結婚したよ、だって。 ※3

私の名前を耳にするのは
あなたにとって恥ずべきこと?

とにかく、知らない人にはならないでね 
お願いだから他人にだけはならないで
どうか全ては忘れないで... ※4


解説・注釈

※1 小さなことでも傷ついてしまうのは 
きっと全部お酒のせい

原文 "With an open heart, open container"

Geniusによると、open containerは蓋の空いた酒瓶のことを指す単語で、アメリカのいくつかの州には「オープンコンテナ法」と呼ばれる法律が存在するのだそう。
これは、レストランやバー、スタジアム等を除いた「公共の場での飲酒」を制限するための法であり、積極的に制定されている多くの都市部と比べ、郊外や田舎では容認していることも多い法なのだとか。

これを踏まえて推測できるのは
久々に帰省した地元をビール片手に練り歩き、変わり果てたその風景や友達の姿、そして、ナイーブになっている自身の精神状況を「久しぶりに外で飲んだせいだ」と吐き捨て、どうにか平静を保とうと苦悩する主人公の後ろ姿。

どうしても「今」を受け入れたくない、という想いが伝わってくる一節です。

※2 頭上では次の悩みを乗せたヘリが飛ぶ

原文 "There's helicopters over my head"

自分にはどうすることもできないような、そんな困難に襲われたとき。
あなたがヒーローのような強く気高い心を持ち合わせていない限り、きっと現実から目を背けたり、「自分にはどうしようもないことだ」と吐き捨て、諦めてしまうことでしょう。

今楽曲の主人公である彼女(Phoebe)も、例に漏れず「現実逃避」という選択を下しました。
故郷の人々の変化、過去に取り遺された自分、将来のことや不安定な自身の精神状況。
もはやどうすることもできないこれらの不安や悩みを忘れ去るために、です。

しかし、そんなことなどお構いなしに「不安」は我々(彼女)の元へとやってきます。

シャワーを浴びながらビールを飲む。
そんな半ば自己破壊的な行為に及ぶ彼女の元に突如として現れた不安(悩み)は、一瞬にして彼女の頭の中を支配しました。
ひと時たりとも止まることなく、次から次へと新たな不安と悩みが自身の脳内を駆け巡る。
その様を俯瞰し、そして向き合う中で彼女が思い描いたのは、不安と悩みを乗せたヘリコプターと、それらを煽るプロペラの轟音

「頭の上をヘリコプターが飛んでいる」
ぞっとするほどに鮮明な、"不安"を表した一節です。


※3 もうみんな結婚したよ、だって。

「私は訊ねる...」から、この一節までのひと場面。
思わぬ再会を果たした元恋人との会話を通じ、彼女が「過去に取り遺されているのは自分だけなのだ」という事実に真に接する、今楽曲の中でも特に重要な場面のひとつです。

そんな重要な場面を締め括るこの一節。
ライブパフォーマンス時は『もうみんな子供がいるよ』 ("They’re all having babies") という歌詞にアレンジして歌われています。

結婚と出産。
他人と共に人生を歩むこと、小さく尊き生命を真摯に育てること。その誓い。
「自分の人生」が「自分だけのもの」ではなくなる、大きな変化、大きな誓いです。
そんなにも大きな変化を皆が受け入れ、その誓いと共に新たな生活を続けているという事実は、彼女にとって、かつて愛した人からのどんな沈黙や冷たい返答よりも、多くを語るものなのかもしれません。

※4 お願いだから、他人にだけはならないで
  どうか全ては忘れないで...

みんなは大人になった。自分は、あの頃のまま。

ずっと目を逸らし続け、精一杯に否定してきたこの事実を、彼女は受け入れることにしました。
それでいい。大人へ進もうと、あの頃に留まろうと、其々が其々にとっての"大切ななにか"を失わなければ、それでいい。そう受け入れることにしました。

だから彼女は最後に、元恋人に、親しかった全ての人たちに、ひとつの願いを伝えました。
変わってもいい。でも"他人"にだけはならないで。
「自分の人生」が「自分だけのもの」だったあの頃。その時の記憶、美しき人々、自由だった自分。その全てを「大人」に呑まれてしまわないで。

流されるように大人になることも、盲目に大人への変化を否定することもせず、どちらの姿勢とも真摯に向き合った彼女だからこそ出逢えた、何よりまっすぐで儚い願いなのではないでしょうか。

最後に

いかがだったでしょうか。
私は「孤独や淋しさを描いた歌った切なく儚い楽曲」というこの曲が持つパブリックイメージの中に、緩やかな希望の一面のようなものが隠れていると個人的にずっと思っていたのですが、それを今回の和訳で完全に表現することができませんでした。
解説・注釈が非常に長ったらしくなってしまったのは、和訳部分で上手く表現できなかった、その希望的な一面をどうにかこうにか伝えようと試行錯誤した結果です。

個人的には不完全な点の多い記事であるため、長々と迷った上での公開ではありますが、周囲の変化やそれに伴う孤独に苛まれた際の小さな拠り所のひとつになれることを祈っています。

それでは。

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