見出し画像

ビスケットブラザーズの話

高校時代のグループLINEが沸きに沸いている。
Instagramでは高校時代の同級生がみんな、同じ話題で盛り上がっている。

キングオブコント2022で、ビスケットブラザーズが優勝したからだ。

なぜそんなに盛り上がっているのかというと、ビスケットブラザーズのメンバーである原田は、わたしたちのクラスメイトだから。

わたしたちは藝能文化科(公立高校)という、日本に一つしかない珍しい学科の卒業生で、その学科は一クラスしかないので高校の三年間をずっと同じメンバーで過ごしていた。
だから同じ期のクラスメイトはみんな、どこか家族のような存在だった。

卒業してからみんなが集まることはほぼないし、特に普段連絡を取り合っているわけでもないけれど、なんか妙に「芸文(略してこう呼んでいた)のみんななら、どこかで楽しく暮らしているだろ~」という信頼があるのだ。

実は原田とは、3年生になるまでほぼ話したことがなかった。
お互いに尖っていたので、むしろちょっと反発しあっていたくらいだ。

クラスに男子は少なかったのだが、原田とは打ち解けるのに一番時間がかかった気がする。
でも、卒業公演(3年生の夏、それまでの集大成の舞台公演をクラス全員で行う。下級生にスタッフ業務を担ってもらい、クラス全員が舞台に立つ)の製作がきっかけで、なんだかすごく仲が良くなってしまった。

そこからは原田がウチで夕飯を食べたり、夜の公園で将来の夢や作品について語り合ったり、自転車でクラスメイトの家を回ったり、色々していた。

個性的なルックスと個性的なコント内容が売りの彼は、実はとても生真面目で繊細なところもあって、だからお互いに、何かを共有していた感覚がとても強かった。

わたしは当時、舞台女優になるという人生しか目に見えていなかったので、原田は夢を追う同志であり、ちょっと似てるところもあってたまにムカつく相手だったり、なんか親戚のような存在だったりした。

高校を卒業して、わたしは上京したり、原田は大阪でライブをやったりと、なんか道が分かれていく中で、ちょっと心細くなったりへこんだりしたときに、時々電話したり、LINEしたりしていた。

でも、相手に負けたくないというプライドと、自分自身を見るような照れくささが合って、お互いに出演するステージを観に行くことはなかった。


そんな原田とは、わたしが演劇の道に挫折してから、少しずつ疎遠になってしまった。
演劇の道を諦めても、結婚するまでは、ほんとうに稀に会うこともあった。

でも、原田と話していると、彼の言葉が優しくなっているのに気付いた。
お互いに芸の道を志している時には、いつも彼の言葉はわたしを突きさしたり、見たくない現実を見せつけてきたりするものだったのに。

彼自身は何も変わっておらず、挫折することなく茨の道を歩み続けている。
それなのに、わたしは自ら夢の道を降りてしまったんだな……と、今にして思えば抱かなくていい劣等感や罪悪感を抱いてしまったのだと思う。

結婚が決まって最後に原田と飲んだ時、彼は純粋に祝福してくれた。
それがとても嬉しかったのに、わたしは、高校生の時に喧嘩しながらも切磋琢磨しあっていた少年少女の姿に、終わりのようなものを感じたのだった。


それからも、クラスメイト伝いにビスケットブラザーズの活躍を聞いたり、テレビをつけたら突然原田がいたり……なんてこともあった。
それは本当に嬉しくて、過酷な道に負けずに頑張っている姿には勇気づけられた。

でも、なんとなく、連絡を取ることができていない。

本当は今だって、LINEなり電話なりして「おめでとう!」って言いたいのに。
なんかそれができない。

何年も連絡を取ってなかったくせに、こんな時にだけ連絡するなんて、浅ましい気がして。そして久々に声を聞いたらなんだか泣いてしまいそうな気がして。
原田はわたしが母になったことも知らないだろう。
だってなんだか照れくさいのだ。もう大人なのに。

あの頃からどんな気持ちで過ごしてきたのか伝えられないのだ。


だから原田、ここでこんなことを書いていても、あなたに届くはずはないけど(わたしも本名じゃないし)、おめでとう。

わたしはわたしの新しい居場所を見つけ、毎日奮闘しているよ。
いつもあなたを尊敬しています。




いつもありがとうございます。 いただいたサポートは より上質な記事をお届けできるよう 大切に使わせていただきます♪ 新米母ちゃんを ぜひとも応援してください📣