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ニホンザルにもあった福祉社会『道徳性の起源〜ボノボが教えてくれること』2

こんにちは、アーティストの糸崎公朗です。

このnoteはアーティストの大先輩、レオナルド・ダ・ヴィンチに倣って哲学、科学、ビジネスなど横断しながらアート思考する【知的エンタメ】ですので、ぜひ気軽にお付き合いいただければと思います。

さて、今回の記事は単体でもお楽しみいただける内容ですが、前回取りあげた本『道徳性の起源〜ボノボが教えてくれること』の続きでもあります。

ざっくりおさらいすると、これは人間に備わる「道徳性」の起源を、類人猿のボノボの研究から探ろうという内容で、オランダの人類学者フランス・ド・ヴァールの著作です。

この本によると「道徳性」は人間だけの特権ではなく、理性の産物でもなく、「子育てする動物」に共通の本能だと言うのです。

だからボノボのような類人猿はもちろん、イヌでもネコでも親となった動物は、愛情を持って子育てする「道徳性」を発揮し、その延長で仲間同士で助け合うのです。

「道徳性」が共通の本能だからこそ、人間はイヌやネコなど他の動物と仲良くなれるし、心を通わすこともできるのです。

ぼくはこの本を読むまでは人間の本能について、空腹や怒りなど原始的で単純な感情、あるいは身体の機械的な動作などを考えていました。

例えば「歩く」という動作を考えた場合、具体的に人間はどうやって歩いているのか?不思議なことに、その具体的な方法を口で説明するのは不可能なんですね。

人間が歩くのは非常に複雑な動作ですが、それは人間に備わる「本能」によるもので、だから「思考の範囲外」なんです。

それで科学者たちは思考の範囲外である「歩き方」の研究を重ね、つい最近になってロボットを人間と同じように歩かせるようになったわけです。

人間は「本能の大半を失った動物」などと一般に言われますが、ぼくは人間に残留する本能を、そのようなイメージで捉えていたのです。

ところがこの『道徳性の起源〜ボノボが教えてくれること』では単純な感情や動作だけではなく、「道徳性」のような人間ならではの理性と思われていた精神にも本能が関わっていることが明らかにされており、あらためて驚いてしまったのです。

この本では、ボノボやチンパンジーなどの類人猿は、人間に劣らず複雑で高度な社会性を持っていることが示されています。

例えば、類人猿の群にはボスザル、最近ではアルファオスと言われますけれど、そのようなリーダーが存在します。

集団を形成して、その中で誰がリーダーなのかを決めることが、類人猿の本能として備わっているのです。

そしてアルファオスが高齢になったりして引退すると、次に誰がアルファオスになるのかっていうところで、政治活動がおこなわれるんですね。

例えば、次のアルファオスになりたいと思うチンパンジーが、人気取りみたいな行動をしたり、根回しみたいなことをしたり、暴力で威嚇したりするんです。

そうやって新しいアルファオスが決まると、それに続くナンバー2、ナンバー3というように、群のなかでのチンパンジー全員の序列が決まってくる。

動物園で飼育されているチンパンジーの群にしても、飼育員から与えられたエサをもらう順番が厳密に決められていて、その順番はチンパンジーたちが自分たちで独自で決めている。

そのようにして、互いにケンカすることなく、全員にエサが行き渡るという、道徳性に基づく社会が形成されているのです。

別の例で言うと、これは野生のニホンザルの研究報告なのですが、群の中に奇形のサルがいて、普通に高齢まで生きたと言うんですね。

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