マガジンのカバー画像

音のない歌詞・詩のようなもの

17
二束三文にも満たないナニカ
運営しているクリエイター

記事一覧

水葬

マーケットで買ったハムとかチキン 引き連れて、罪悪感もない 猫なで声 フェンス越しに見てろよ 少年は卵泥棒 逃げた魔女は仔羊 仮宿にサヨナラを焚べるのは明け星なんだ 僕らは生き残る為に、厭わない 何かを厭わない ラクダに揺られて街から街へ 嗚呼、クーラーの効いた夏休みが懐かしいよ 乾ききらない絵の具と スピーカーに繋いだままのイヤホン 静寂に喪して 小さな蕾のついた花を添えて 起こさないように 好きと呟く ネットで買った洋服とか自己啓発本 引き連れて、罪悪感もな

LASTLETTER

冷蔵庫を開けて 寝起きの缶ビール 春風の中で ワンルームの成層圏がふわり 舞い上がって僕は Mayday Mayday Mayday こちら惑星Earth 迎えに来てよ 僕のエイリアン シンクには昨日の食器 溜まった洗濯物 モザイクを掛けて 見て見ぬふり 北緯36度、東経140度 お気に入りのシャツが見当たらないよ Mayday Mayday Mayday ペットは飼ってないし 観葉植物も育ててない 大事な写真は財布にこっそり偲ばせてさ 刻むビートにモールス信号を

antique

継ぎ接ぎだらけのテディベア 色違いの瞳 吹き込んだボイスレコーダー 続きはまだ あの頃のガラクタが 海底2万マイルに眠り続けている ムーンライトダイバー 深く 深く 潜ってゆくんだ 正義も悪も届かないこの場所でなら 鍵を開けてもいいかな 在るべき姿で ありのままの気持ちで 迎えにゆくよ 月が明るい間に 二階建てのドールハウスで お茶会 プラスチックのロケットで 宇宙遊泳 あの頃の宝物は 海底2万マイルで夢の続きを ムーンライトダイバー ふわり ふわり たゆたいな

物理学者の聖域

朝帰りの虚栄都市 落とした目玉を カラスがついばむ 親しみを込めて 架空の恋人に名前を付けるよ 極彩色のグミが好きで 炭酸が飲めない 猫っ毛 奇数のピアスに解けない波動関数がゆらゆらと 要らないものが捨てられない 僕は 捨てられない つまるところは背中のないヒッチハイカー 責任とか、債務とか そんなネクタイで首を括る予定はなくて 指を絡ませて 見知らぬ町の薄明(はくめい)を仰ぐんだ バイバイ 君は言う 「もったいないね」と微笑む バイバイ ピアスが揺れる

AI

不確かな衝動は 触れるか触れないかの瞬間 白熱灯が瞬きするように すり抜けた ポケットに幾らかの小銭と 少しの罪悪感を抱いて 約束のない逢瀬に向かう 日々 全てにおいて平等で 愛おしいほど残酷で 完成された営業スマイル ほつれた襟足の眩しさばかりが瞼に焼き付いた 棺を埋め尽くす かすみ草で 感情を弔って 横たわる僕は獣 立ち尽くす僕は幽霊 煌々と光る摩天楼に吸い寄せられて 何度も、何度も 心のない会話を無機質に繰り返す いつかその魂が還る場所があるのなら 悲劇

虚蝉

お腹を空かせた盗っ人が パイを盗んだとして ある日 忽然と 君が消えたとして 藍色の燕が 僕の一部を持ち去ったとして それは 在るべき うつせみ 眠る迄、おとぎ話をしよう 幼い兄弟が 親切な老婆を窯で焼いたとして 君が残した 造花が枯れたとして 約束を破った僕が たったひとり取り残されたとして それは 在るべき うつせみ 物語は時間をかけてゆっくりと 街から街へ 人から人へ いつか君の元へも届くだろう この世界が眠りにつく迄 ただ、おとぎ話を

孵化と羽化

招かれて 蚊帳の中 ちょっとほっといてくれよ 街頭に立つ聖人は 安刷りのチラシを抱えて エコなスマイル いつだって頭ん中 煩いな _そつ無く生きたいんだろ 耳障りのいい台詞 愛想笑い お気に召すまま _中の上で生きていたいんだろ ありきたりな悩み 抱えて 慰め合いたいんだよ _まだ足りないんでしょ _もっと埋めつくして欲しいんでしょ ちょっと黙っててくれよ 静かに 熟れて崩れた果実に 蝿が群がる 甘い死の匂い 温かな小部屋は破られて 剥き出しの感情は産声をあげる

ghost

寝惚けたまま 鼻をすする 仄白んで 溶けだした 幽霊船 前髪の隙間から覗いた 酔いどれに放った言葉の納期が 背後に佇んで 静かにほくそ笑む 鏡に映るあいつは 歩道橋ですれ違う彼女と恋に落ちる事もなく 死んでいくんだろう 忙しなくシャワーを浴びて トーストを胃に押し込めば 今朝の運勢に縋れるんか 『射手座のあなたは素敵な出会いがあるでしょう!』 そんなふうに すべて予め決まっていたかのように 何事もなかったかのように シラケたまま 頬杖をつく 昼時 ごった返した

プロセニアム・アーチ

若さは 人生に抗うのが強さだと思っていた 刹那は 永遠に続くものだと信じていた 享受する 骸を抱く アリア 分かち合う ただ、それぞれの選択を あと一歩が踏み込めないんだ 君の隣 僕には荷が重過ぎて 感傷的になるには ちょっと不釣り合いな 曖昧な関係の僕等 そんなに悪くもないよ 空虚は 過度に期待して裏切られたと思っていた 優しさは 与えられるものと信じていた 甘受する 終焉に向かう カバレッタ 解ってる 人と人が 交流して暮らすこと あと一歩が届かないんだ

地底の雁行

朝靄の渡り鳥 狂信者は 群れをなして 規則的な幸せは 僅かな孤独をも際立たせ 誰かを殺すかもしれない ホームの白線に立つ オカルトマニアのあの子 身を潜めて 誰しもが 誰にも語れない物語を引き連れて 日々を渡るだけ それだけで精一杯で いつの間にトライアングルから弾かれて 現し世から静かに零れ落ちていくんだ 偽りの神に成りすまし 損得で勘定する0と1のユートピア 宵闇の傍観者 盲信的に 本能のままに 蔓延した孤独は 本当に孤独な人間を救う 唯一の術なんだって

惑星弱虫

目印も何もない月面を 肩書きばかり詰め込んだ名刺 握りしめて 誰かの足跡 探してなぞっていく 存在しない椅子の周りをぐるぐる廻るだけの くだらない椅子取りゲームはもう飽きたし 僕が僕である為に必要な物もの ただ此処にあるもの きっと それだけ ただ それだけ 同じ街で育った僕ら 同じ体温で生きていたから 分かり合えたんだ 凍てつく酸素が心臓まで届きそうだから 少しだけ寄り添った くたびれた希望にもたれて僕は 出来損ないと嘲る事しか 雨音に混じるサイレンに耳を塞いで

嘘つきの処方箋

それはそれは甘い贅沢に 脳みそはあっという間に肥満し膨れ上がった 誰かの優しさも寂しさも すべて 食い散らかしては、食べ残す メレンゲに卵黄と見栄と砂糖を入れて泡立てたら 嫉妬と小麦粉をサックリ混ぜて バターと自尊心を溶かして流し込む 恋の擬似エッセンスで香り付け オーブンでこんがり妬いて 美味しく頂けば、 ほら。 気分はHappy 満たされて。 愛とか、推しとか、 ジェネリックで親身なドクターを いつもこの掌に 白く柔らな嘘に包まれて どこまでも傲慢な私は

デイドリーマー

純粋な悪意を蹴散らしながら往くんだ 他人の期待値で 心切り売り グラムお幾らですか 指先でフリック 残高不足です 冗談じゃないよ 目隠ししないで 全て焼き付けたいんだ 花の匂いを嗅いで 舌先で味わった つもりになって 僕のものになってよ ご覧の有り様 つまらない顔しないでさ 盛大に盛り上げるから どうぞ楽しんでいってよ そんなつもりじゃなかったんだ ベルフェゴールの探求なんて皮肉って 後ろ指差されるのもご愛嬌 いつだって知らぬ間に定義され 引き返すこともままな