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疎ましくも懐かしい光景~序列行動と豪傑笑い

先日、友人と食事をしていると、4人の会社員が店に入ってきた。

お店は大人が集うお好み焼き屋。とってもおいしいけれど庶民的なお店で、鉄板料理もやっているからお酒が進む。参考価格生ビール500円。

まず、三下奴がへこへこと案内された席へやって来て、直立不動で「こちらですっ」といわゆる上座を示している。
一拍置いて、おごそかにやってきた年かさの男がそこへ座る。三下が「〇〇さんこちらへ」と言うようなことを言って、おそらく次にエライ奴を座らせ、最後に通路側の下座に三下奴の先輩らしき男とともにかしこまって座った。

隣に座っていた友人も、彼らの着席風景に気づいていて「おー序列がキッチリしているな。上下関係が一目瞭然だね」と笑っていた。
なんだか懐かしい光景だね、新入社員の頃を思い出すだの、こんなところでもあそこまでかしこまるかねだの(あ、味は上等だけど庶民派の店と言う意味ね)、言い合ったけれど、こちらの話題の方が楽しくて彼らのことは意識から離れていった。

少し時間が経った時、ふいに4人組の席から大きな笑い声が聞こえた。
わーっはっは!!と上席が豪快に笑い、残りの3人がお愛想笑いで追随していた。
「接待じゃないよね、同じ会社だよねあの人たち」「あいつらまだ残業してんだな、ご苦労さん」こちらではそんなことを言いつつ、熱々のお好み焼きを頬張り、ビールを流し込んでいた。

豪傑笑いを聞いて、ワタシはサラリーマン時代の大嫌いな上役のことを思い出していた。
あいつもこういう笑い方をしていたな。自分は仕事が出来かつ明朗快活で皆に好かれている、そんなアピールだったのだろう、奴が社内にいると、わーっはっはと無理のある笑い声が広いフロアに響き鬱陶しかった。
そうそう、ONもOFFも手下(部下)を沢山連れて練り歩いていたところも似ている。
その上役は豪胆でも明朗快活なんかでもなく、偉くなるために陰で同僚の足を引っ張ったり、上司に激しくすり寄ったりしてのし上がっていた陰湿な小心者だった。

あんな真似をしてでも偉くなりたいのかね、むしろ気の毒と見ていたのだけれど、ワタシの冷ややかな眼差しが気になっていたのだろう。時折ワタシの席近くにやって来てはつまらぬ話をしては豪快に笑って「な、伊藤さんもそう思うだろ?」と機嫌をとりに来た。そんな時でも今でいう塩対応をしていたので「そんなにムスッとしていると幸せが逃げるよ」とハラスメントすれすれの捨て台詞を残しつつ、わーっはっはと笑いつつ去っていくのが常だった。

しかし、なぜワタシはあそこまで奴のことを毛嫌いしていたのだろうか?別の部門だし関係ない人なのに。
その頃の私は、びっしり張り巡らされた「分厚いガラスの天井」にむやみに当たっては砕け疲弊する日々を送っていた。
ワタシはこんなに努力をしても報われることは無いのに、ば〇で〇〇つきな奴は易々と上に登ってゆく。奴の姿に屈折した嫉妬の炎を燃やしていたのかも知れない。
世の中はまったく平等ではないし、思い通りになることなんてほんの僅かであることはその頃から充分承知していたつもりだけれどね。


やがてワタシたちは〆の焼うどんもお腹に収め、帰ることにした。
4人組は相変わらず上席の人物の独演会。次席が時々合いの手を入れ、豪傑笑いが店内に響く。そして下座はかしこまってそれを聞いている。

下座のビールはぬるくなり減っていないね。本当にご苦労さま。

そして、あの頃のワタシにもご苦労さま。


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