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#2: 静水圧平衡と気圧座標

こんにちは,坂浦いとです.以前,私は「気圧座標,君の本心は?」で気圧座標について深く触れました.

しかし最近,気圧座標の核心は実は公理として使われている静水圧平衡であることに気づきました.今回はゆうぽむ(高咲侑と上原歩夢)の対話形式で書きます.

ダイアローグ:ある日の学食のゆうぽむ

歩夢
このまえ,気圧座標についてたくさん話したよね.私,最近気圧座標の核心がわかってきた気がして…


歩夢,それって何?

歩夢
静水圧平衡だよ.教科書でもさっとその式を使って気圧傾度力を気圧座標版に変換するけれど.じつはそれが鍵を握っていたことに気づいて.


確かに,静水圧平衡のおかげで高度座標と気圧座標が一対一に対応していることを保証してくれているし,教科書は本当にさっと使われちゃうからどれが公理か初見では気づかないね.

歩夢
そうだね.静水圧平衡を書いてみると

$$
\left(\frac{\partial p}{\partial z}\right)_{x,y,t} = - \rho g
$$

となって,右辺は常に負になるから,高度と気圧は大きいほうに向かう向きは逆だけど一対一に対応しているね.実際,高度が高いほど気圧が低いし,気圧座標はその対応を一対一ならしめるために静水圧平衡を公理として採用していることを重視してほしいなあと教科書には文句言ったけれど.


(笑い) かなり強気だね.私も教科書にはコメントばっかりだよ.

歩夢
さて静水圧平衡をを解釈しよう.

$$
\left(\frac{\partial p}{\partial z}\right)_{x,y,t} = - \rho g
$$

ってある時間$${t}$$において座標$${(x, y)}$$にある鉛直向きの空気の柱,気柱において成り立つ式なんだよ.


たしかに,静水圧平衡ってある高度$${z}$$での気塊の重力と上向きの気圧傾度力がつりあっている状態を言っている式だよね.

歩夢
侑ちゃん,気圧って初等的に言うとどういうものかわかる?


気圧って,気柱の重さに対応しているんでしょ.私がいる高度から上空までの累計の空気の重さでしょ?

歩夢
侑ちゃん,そうだね.だから私はこの式を大雑把に積分してその初等的な事実と対応させたの.


でも右辺は密度場で定数じゃないよ.どうやってやるの?

歩夢
大雑把に具体的に計算せずに積分の式だけ書いて解釈を与えたの.実際やってみると

$$
p_{ref}(x, y, z=z_{ref}, t) - p(x,y,z,t) = - \int_{z}^{z_{ref}} \rho(x, y,z', t) g \:dz'
$$

ここで$${p_{ref}(x,y, t)}$$はリファレンス高度$${z_{ref}}$$での気圧,そしてリファレンス高度を大気の上端にするから気圧は0と仮定,そしてもちろん密度も0になって.したがって$${p_{ref}(x, y, t) \equiv 0}$$であって
$${p_{ref}(x,y, z_{ref}t) < p(x,y,z,t)}$$だから

$$
p(x, y, z, t) = \int_{z}^{z_{ref}} \rho(x,y,z',t) g \:dz'
$$

ほらこうしてみると気圧って侑ちゃんが言ったものと整合性が合うでしょ.

(註釈: 密度と気圧は高度とともに指数函数的に減少する,つまり十分急速に高度とともに減衰すると仮定しました.これは観測事実に沿っています)


たしかに.ここで積分ってすごい足し算だから高度$${z'}$$の密度$${\rho(x,y,z',t)}$$を重力$${g}$$とかけて密度すなわち質量密度を,重さつまり重さ密度に変換して,幅$${dz'}$$で調べたい高度$${z}$$からリファレンス高度の$${z_{ref}}$$,つまり大気の上端まで鉛直向きの方向で足し合わせる感じだね!

歩夢
解釈ありがとう!
気圧座標と対応させると,高層天気図で500hPaとか850hPaって上空から足し合わせた空気の重さに対応しているね.したがって気圧座標って上端からの空気の重さのコンターに対応しているね!


そう呼ぶと,気圧座標って結構自然なものだね.

歩夢
私もこう考えてみたら,気圧座標のもやもやがすべて吹き飛んだ気がして!!


最初はよくわからないモチベーションのもと導入されたが,気圧が重さに対応させた座標だけなんだなと.気圧の意味を考えてみればすぐわかることなのに…なかなか気づけなかったなあ…

歩夢
私もすごく単純なのに気づけなかったね… こういうのって灯台下暗しといえるね.


(笑い) もやもやしているときって考えすぎのことも多いから初心に戻ると解決することって意外とあるよね~

歩夢
そうだね! あ,そろそろ昼休み終っちゃうね.早くつぎの授業の教室に行かなきゃ!
侑ちゃん今日も放課後一緒に帰ろう,またね~!

参考文献:

ジョナサン E. マーティン[著], 近藤 豊, 市橋 正生[訳]. 大気力学の基礎 中緯度の総観気象. 初版. 東京大学出版会, 2016. (この教科書をベースにしました)

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