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赤裸々創作告白

 その人と出会ったのは、とある居酒屋だった。
「どうも初めまして、小説家をやっておりますsunと申します」
 そう名乗った彼は、とある界隈で小説家をしている人であった。
 
 私は、幼い時から小説が好きだった。
 『ダレン・シャン』や『魔術師オーフェンはぐれた旅』のようなダークなものから、『人間失格』や『夫婦善哉』のような古典文学と呼ばれるものまで様々なものを読んだ。
 そんな私が自分も小説を書きたいと思うにはそう時間がかかることはなく、高校生では文芸部に所属して書きたいことを書き続けたものだ。

 夢見がちな私は高校を卒業してから小説家を目指してみたこともあったが親はそんな不定の仕事に就くことを許さなかったので、不満に思いつつも私は親の意向に従って介護の世界に入ることとなった。
 高校を卒業して大学に入り、就職しても小説は趣味で書き続けた。それしか趣味がなかったと言っても良い。私は小説を読むことと書くこと以外とくに趣味のない人生を歩んだ。

 公募以外で小説の発表というと場所は限られてくる。
 Web小説と呼ばれる『カクヨム』や『小説家になろう』などがあげられ、そこに投稿することもあった。しかし、私はWebの文体や内容と壊滅的に相性が悪かった。私の今まで読んでいた縦書きの文章に対して横書きの文章が読みにくかったのと、悪役令嬢や成り上がりといったものを書くことが出来なかったのだ。
 テンプレート化されたものはとても強い。出版社もそれぞれのコンテストも右を見ても左を見てもそんな小説で溢れていてそれが私にはひどく窮屈だった。自分の文章を発表する居場所を求めてさまよい、出会ったのがsunさんだった。

 彼もまたWeb小説やテンプレート化された界隈に嫌気がさして場所移動を行った人だった。酒の勢いで話をしてWeb界隈のことで愚痴りあって意気投合した私とsunさんはそれから親しくするようになった。
 sunさんは個人勢Vtuberの方やネット上で活動をしているキャストの方などを書いている方だった。
 私はとても衝撃を受けた。そんな業界が存在することを知らなかったのだ。小説業界はWeb小説界隈や公募しかないものだという私の偏見はすべて吹き飛び新天地の発見に心が躍った。
 それからというもの、私もそんな活動がしたくて様々な業界へ出入りするようになった。

 だが、世の中そうはうまくいかない。
 私がいくら頑張ってもなかなかsunさんのように依頼が来ることはなく、閑古鳥が鳴いている。それがたまらなく嫌だった。
 今まで評価されたいという意識とは無縁だった私が初めて対抗意識や嫉妬心を覚えた瞬間である。
 
 評価されているsunさんを横目に見ながら閑古鳥の鳴く自分にひどく焦り、なんとか自分が入り込む隙間はないかと模索する日々。それは嫉妬心や対抗意識が芽生えたからこその苦悩であり、初めて芽生えたこの感情の処理の仕方にはとても苦労した。

 初めての世界を教えてくださったという感謝、優しく愚痴を聞いてくれたという愛情、自分が目指す物に対する成功モデルという嫉妬と憧れ。

 それはひどく醜いと感じるものであると分かりながら、それはひどく愛しいと感じるものでもあった。
 愛憎入り混じるこの感情はとても貴重なものだ。今までの小説家としての自分の仮面をはぎ取ってむき出しの感情を晒される。それは創作意欲を刺激されることであった。

 いまだに私の所には閑古鳥が鳴いている。これからもそうかもしれないし、sunさんに対する愛憎も続くかもしれない。
 けれど、彼と出会ったことを後悔はしないし何度あの酒場に行って出会ったとしても同じ未来を辿るだろう。そして一緒にいることへの後悔など少しもない。

 今までの居場所を変えたことで様々な発見があった。それは良い面も悪い面もある。
 これからも私は様々な人々と出会うだろう。
 その時にも様々な感情が芽生えるはずだろう。

 sunさんとの出会いは、これからの私の新たな出会いの序章でありたい。


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