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case1:二浪した女学生

私は今年の夏で21歳になる。
が、今年の4月にようやく桜が咲いた。
長い長い冬だった。
辛くきつい冬だった。

小さい頃から、欲しいものはなんでも買ってもらえた。
あれが欲しい、これが欲しい。
あれがしたい、これがしたい。
なんでも両親は叶えてくれた。

「夕飯を一緒に食べる」こと以外は。

父も母も医者だった。
医学部時代に出会い、結婚したらしい。
たくさんの人を助けたかった母は医局に務め、人の命に直接に関わることが怖かった父は歯科医を開業していた。

家に帰ると1人。
だいたい机の上にメモが置いてあって、どちらかが家に早く帰れれば外食をしに行く旨が書かれていて、二人ともそんな余裕がなければお金が添えてあった。

休日、2人と出かけられた時ほど嬉しいことは無かった。しかし、急患が来ると母がいなくなってしまう。
思えば父と母が揃っていた記憶なんて全然なくて。
私はお医者さんなんてならない。

子供心にそう思っていた。
そう思っていたはずなのに…。
今私は医学部の入学式にスーツを着て参加している。
父と母が揃って入学式についてきた。
生まれて初めてふたりでいるところを見たかもしれない。

医者になるのも悪くないかもしれない。

さて、私は誰を助けようか。

#連載 #短編小説 #短編集 #不器用な人類たち