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クラウドサービス / SaaSマーケットの現状2019 - Bessemer Venture Partners

ベッセマーベンチャーパートナーズによる"State of the Cloud 2019"が大変面白かったので参考までに訳しました。一部slideshareのfull presentationからも補足で記載してます。(後半の2019のSaaS予測についてはこちら

ポイント

・SaaS企業の時価総額は史上最大。未上場のSaaSユニコーン企業で55、上場も加えると99ものSaaS企業が時価総額10億ドル超

・SaaS企業を評価する際にBessemerが使ってるベンチマーク:GRIT SCORE(Growth: 成長率、Retention: 継続率、In the bank: 残預金、Targeted spend: 効率性)がシンプルで面白い

SaaSは方程式・型があるていどあるがゆえに、成功モデルを全部こういう項目で評価可能です。全部見えるがゆえの厳密な評価と運用をどこまでやれますか?という問いをまさにこのGRIT SCOREに感じます。

 ・Growth: ARR成長率
ARR 100万ドル→1000万ドル Good:4年 / Better:3年 / Best:2年
ARR 100万ドル→1億ドル         Good:10年 / Better:7年 / Best:5年
 ・Retention: 継続率
Net retentionが1%違うだけで時価総額に1億ドル差が出ることも。 
 ・In the bank: 残預金
予算に余裕を持たせること、18-24ヶ月のバーンを意識すること、採用を慎重にする、というのが何よりのポイント
 ・Targeted spend: 効率性
支出も計測。上昇相場では効率性が悪くてもいいが、どんな相場でも成長していく持続性ある企業を作るためには、支出効率が非常に大事。

内容

今や、55もの未公開のSaaS企業ユニコーンが存在するし、44の上場SaaS企業も加えると、実に99のSaaS企業に10億ドル以上の時価総額がついている。今年は、SaaS企業の資金調達金額とM&A金額が、過去最高を記録した2015年を上回り、過去最高を記録している!!

大規模なM&AとIPOが多発
IBMはRed Hatを330億ドルで、マイクロソフトはGitHubを75億ドルで買収し、SendGridは29億ドルでTwilioの傘下に入るなど、総じて900億ドル以上の金額がM&Aに。DocuSign、Dropbox、Elastic、Carbon Blackを含む、SaaS企業のIPOも、総額500億ドル以上の規模に。

SaaS企業の時価総額は過去最大
10年以上の間、米国は史上最も長い上昇相場にいる。1,750億ドル、トップ100のプライベートSaaS企業はかつてない企業価値。

SaaS企業のためのフレームワーク"GRIT"

GRITは、最も影響力のあるSaaS企業になるためのフレームワーク。
Growth (成長率) x Retention (継続率) x In the bank (残預金) x Targeted spend (効率性) = GRIT SCORE

Growth: ARR成長率

年換算経常収益(ARR)の成長率がまず重要。
Slack 3年、Twilio 5年、Shopify 7年など、成功したSaaS企業もそれぞれARR1億ドルを達成するために個別の道(別々の年数)を歩んでいる(Slack!!)。

企業がARRを100万ドルから1億ドルにするのに要した時間の内訳
・上場してるクラウド企業の上位25%は、平均5.3年でARR1億ドルに到達
・中央値ベースではARRで1億ドルに達するのに7.3年
・下位25%は、ARRで1億ドルに到達するのに10.6年

SaaS企業は1000万ドル、1億ドルのARRに到達する時間軸で評価可能

Good: 4年間で100万ドル→1,000万ドル、10年間で100万ドル→1億ドルのARRに到達。(例:Cornerstone On Demand)
Better:3年間で100万ドル→1,000万ドルのARRを達成し、7年間で100万ドル→1億ドルのARRに到達。(例:Shopify)
Best:2年間で100万ドル→1,000万ドルのARRを達成し、5年間で100万ドル→1億ドルのARRに到達。(例Twilio、ServiceNow)

Retention: 継続率

アップセルを含むリテンションは、ARRの成長において、最も影響力のある指標。優れたSaaS企業においては、Net Retention Rate(売上継続率)は、100%を超えることも。

Retentioon Rateは顧客セグメントによって意味が異なる。SaaS企業が顧客セグメント別に目指すべきRetention Rateのベンチマークは次のとおり。

SMB:ACVが12,000ドル未満のSMB顧客のGross Retention Rateは70〜80%、Net Retention Rateは80〜100%。
Mid-market:ACVが12,000~50,000ドルのMid-market顧客に対しては、Gross Retention Rate 80~90%、Net Retention Rate 90~120%を目指すべき。
Enterprise:ACVが5万ドル以上のEnterprise顧客に対しては、Gross Retention Rate90%以上、Net Retention Rate 100%以上を目標とすべき。

Retentionが時価総額に大きな影響を及ぼす
Retentionによって、時価総額も大きく変わる。Net Retention Rateがさらに1%増加すると、時価総額が1億ドル増加する可能性もおある。(上下の差だと、15%で15億ドルの差)

そもそも、Retention Rateがこのベンチマークの範囲内に収まらない場合、「穴のあいたバケツ」の背後の原因を調査する必要がある。チャーンは常に大きな問題の兆候。解約/チャーンの根本的な原因を特定して対処することが急務。

In the Bank: 残預金

アーリーステージのSaaS企業経営者にとって、銀行にある現金(キャッシュ)は王様。「Runway / 滑走路(※スタートアップに残された時間で、その時間が終わるまでに離陸できなければ失敗)」と呼ばれるこの現金、残預金は、プロダクト開発、新規顧客獲得、従業員採用、およびあらゆる成長投資のための燃料。

この「滑走路」を効率的に管理することが、アーリーステージ企業の生命線。

・危機管理プランのために、予算をバッファさせること
・最低でも18〜24ヶ月の「滑走路」を確保すること
・チームを拡大するときはできるだけ慎重に

採用は成長させるための効果的な手段だが、最も高くつく。疑問を感じるならゆっくりと採用し、新しいメンバーが目標を推進できない場合はすばやく解雇すること。キャッシュをどう割当てるかによって、最終的に目的地が決まる。

Targeted spend: 効率性

SaaS企業経営者は常に成長を促進するために、賢明に資金を費やす必要がある。2017年に、BessemerはBVP Efficiency Scoreを使用して賢明な支出を測定できるように。

ARR3,000万ドル以上
Efficiency Score = コミットされたARRの増加率 (%) + フリーキャッシュフローマージン (%)
ARR3,000万ドル以下
Efficiency Score = net new ARR / Net burn *1が望ましい

企業が3倍に成長すればそれは素晴らしいが、そこに到達するために狂気の支出をしているのであれば、それは効率的な成長とは見なせない。
ARRに基づいて、Bessemerが推奨するEfficiency Scoreは次のとおり

・アーリーステージ(<3,000万ARR):Net new ARR / Net cash burn = 1
・拡大期(3,000万ドル~6,000万ARR):% CAGR Growth + %FCF Margin = 70%
・プレIPO(6,000万ドル〜1億ドルのARR):% CAGR Growth + %FCF Margin = 50%
・IPO(1億ドル+ ARR):% CAGR Growth + %FCF Margin = 30%

上昇相場のマーケットでは、スタートアップが必要以上に高いコストで新規顧客を獲得する低効率成長でも逃げ切ることができる。しかし、それはResilient Companyではない。より支出効率の良いビジネスを展開することで良いことは、どんな市場でも報われるということ。

BVP Efficiency Score(ARR3,000万ドル以下の例):この時のShopifyはスコア6.0xで、Bestにあてはまる。

GRIT SCOREの参考例


GRIT SCOREは、GRITの各スコアの合計値。3~4がGood、4~6がBetter、6~がBestにあてはまる。

TwilioのGRIT SCOREは、3 (300% Growth) +1.6 (160% Retention) + 2 (2 Years of Runway) + 1.5 (1.5x Efficiency) = 8.1 

ServiceTitanのGRIT SCOREは、2 (200% Growth) +0.9 (90% Retention) + 2 (2 Years of Runway) + 3.4 (3.4x Efficiency) = 8.3 

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後半の2019のSaaS予測はこちら!!


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