見出し画像

北谷馨の質問知恵袋 「承諾証明情報」に関する質問

今回は、「承諾証明情報」に関する質問です。

Q:売買を原因とするAからBへの所有権移転登記がされた後、C名義の抵当権設定登記がされています。その後、Aが強迫を理由にAB間の売買契約を取り消したため、Bへの所有権移転を抹消する登記を申請するとします。この場合、抵当権者Cの承諾証明情報を提供する必要がありますが、(強迫による)取消し前の第三者であるCを保護する規定はないため、Cには承諾義務があります。「第三者保護規定がない」のであれば、第三者の承諾など関係ないはずであり、なぜわざわざCの承諾証明情報を提供しなければならないのでしょうか?

質問の趣旨としては、「Aは当然に強迫による取消しを第三者Cに主張することができるので、Cの承諾など無意味ではないか」ということかと思います。
 これは、登記官が神様で、真実の権利関係が分かるのであれば、正しい指摘になります。
 しかし、登記官は真実の権利関係が目に見えるわけではないので、登記をすることによって利害関係を有する者を手続に関与させることによって、登記の真実性を確保しているのです。
 
実体上の話をすれば、AがBとの売買契約を強迫を理由に取り消したのであれば、AB間の売買契約は遡って無効となり、Bは、抹消登記に協力する義務があります。Bの承諾など関係なく、取消しの効力は生じています。
しかし、登記手続上、A一人でAからBへの所有権移転登記を抹消することはできず、登記上直接不利益を受けることになるBを登記義務者として手続に関与させることで、登記の真実性を担保しています。
仮にA一人で抹消登記を申請できるとなると、本当は強迫による取消しなど無いのに、Aがデタラメな抹消登記を申請してしまうおそれがあるからです。
また、Aとしてはデタラメであるつもりがなかったとしても、Bは強迫の事実を認めておらず、AB間で争いがあるというような場合もありえます。
このような権利関係がはっきりしない段階で、Aだけの言い分を聞いて抹消登記をすることも妥当ではありません。
誤った登記がされることを防ぐために、登記をすることで直接不利益を受けることになるBを登記義務者として申請に関与させているのです。
 
更に、AからBへの所有権移転登記を抹消すると、Cの抵当権の登記も職権抹消されることになります。
そのため、Cも手続に関与させる必要があります。

仮にCを手続に関与させる必要がないとなると、AB間でグルになって、Cの抵当権の登記を消すために、Bへの所有権移転登記を抹消してしまうかも知れません。
また、AB間がグルではなかったとしても、Cとしては「強迫の事実はないはずだ」と争いたいこともあるでしょう。
「Cに承諾義務がある」というのは、あくまで「AB間の売買契約が、真実、強迫によって取り消されていた場合」の話です。
しかし登記官には「真実」は分かりません。それにもかかわらず、Cの言い分を聞かず(Cの承諾を要せず)、AB間の申請だけで、Cの抵当権の登記も抹消してしまうというのは、誤った登記によりCの権利を害するおそれがあります。
そのため、承諾証明情報を要するという形で、Cを手続に関与させているのです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?