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北谷馨の質問知恵袋 「債務引受」に関する質問

今回は、「債務引受」に関する質問です。

Q:「免責的債務引受」や「併存的債務引受」により抵当権の債務者変更の登記をする場合の、原因日付がよく分かりません。

「債務引受」は、従来は択一式ではあまり出題されなかったのですが、債権法改正によって明文の規定が置かれるようになりましたので、今後は民法・不動産登記法のいずれにおいても注意が必要な分野になります。

併存的債務引受

 まず、併存的債務引受についてです。
民法上の要件から確認しましょう。
 
債権者A・債務者B・引受人Cとすると(つまり変更後の債務者はBC)

① ABCで契約
② ACで契約
③ BCで契約+AがCに承諾(効力発生はAの承諾時)

の3パターンになります。
 
では、①~③の要件を満たして併存的債務引受が生じた場合、抵当権(AのBに対する債権を担保していた抵当権)はどうなるでしょうか。
併存的債務引受の場合、AのBに対する債権は残りますから、抵当権が消えるということはありません。債務者としてCを追加できるかどうかの問題です。
 
債務者にCを追加する抵当権の変更は、併存的債務引受の効果として当然に生ずるものではなく、別途、設定者と抵当権者との合意により行われます(令2.3.31民二328号通達)。
例えば、令和5年5月1日に、債務者をBCとする併存的債務引受契約がABC間でされ、実体上、併存的債務引受の効力はその日(5月1日)に生じたが、「抵当権の債務者にCを追加する旨の合意」が令和5年5月10日にされたのであれば、抵当権変更の原因日付は、令和5年5月10日になります。

免責的債務引受

 次に、免責的債務引受についてです。
民法上の要件から確認しましょう。
 
債権者A・債務者B・引受人Cとすると、

① ABCで契約
② ACで契約+AがBに通知(効力発生はBへの通知時)
③ BCで契約+AがCに承諾(効力発生はAの承諾時)

の3パターンになります。
 
では、①~③の要件を満たして免責的債務引受が生じた場合、抵当権(AのBに対する債権を担保していた抵当権)はどうなるでしょうか。
 
抵当権は、何もしなければ消滅してしまいます。
抵当権の債務者をBからCへ変更するためには、

ⅰ AがCにその旨の意思表示(あらかじめ又は同時に)

ⅱ 設定者がC以外であれば設定者の承諾

の2つの要件が必要です。
ⅰは、免責的債務引受の効力が生じる以前に、抵当権を引受人が負担する債務に移す(抵当権の債務者をBからCに変更する)という意思表示を、抵当権者Aが引受人Cに対して行うということです。
加えて、抵当権の設定者が引受人C以外の者である場合は、その承諾が必要になります。
上記ⅰⅱは、「免責的債務引受の効力が生じる以前」に行う必要があるので、抵当権変更の原因日付は、免責的債務引受の効力日になります。免責的債務引受の効力が生じた後に、上記ⅰⅱを行うことはできないからです。

最後に

「面倒くさい」「覚えられない」という方も多いと思います。
確かに面倒です。
しかし、債務引受は「民法の択一式」「不動産登記法の択一式」「不動産登記法の記述式」のいずれでも出題される可能性があり、かつ、出題されれば、「差が付く」論点と言えます。
覚えるのに多少時間はかかると思いますが、こういった分野を嫌がらずに、しっかりと押さえていくことが合格への近道になります。


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