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出題予想の観点から山野目章夫先生の「不動産登記法」【第3版】を覗く

4年ぶりに不動産登記法の基本書である山野目章夫先生の「不動産登記法」(第3版)(商事法務)が改訂された(以下「山野目不登法」という。)。

山野目先生は、今更、言うまでもなく、改正の出発点となった平成29(2017)年の10月の山野目研究会(「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会」)の座長として、また、法制審議会の民法・不動産登記法部会の部会長として、2019年(平成31年)3月から2021年(令和3年)2月まで、全26回会議を主導した、令和3年民法・不動産登記法改正(以下「令和3年改正」という。)の立役者である。

控えめに考えたとしても、山野目先生の考え方こそ立法者の意思を如実に顕すものだと言って過言ではなく、その考え方は最大限に尊重すべきものとなっている。

既に、山野目先生は、「土地法制の改革 土地の利用・管理・放棄」(有斐閣、2022.2.10)を上梓されており、土地基本法の改正と民法・不動産登記法の改正との関係を懇切丁寧に解き明かしており、これは令和3年改正解説の決定版といえる内容となっている。

今回の山野目不登法の改訂は、不動産登記法の体系の中で、令和3年改正がどのような位置を占めるのかを明らかにするものとして大注目なのである。

ただ、我々の当面の関心事は、相続登記義務化の施行に伴い令和3年改正が記述の試験に及ぼす影響であり、山野目不登法が令和3年改正をどのように扱っているのかを覗き見ることで、記述試験の出題論点を考えるよすがとするものである。

▼本文の記載

○ Aの相続人BCは法63条2項で法定相続分の相続登記を単独申請でき、B又はCは民法252条5項で申請することが可能である(p314)。

○ 遺産分割協議による財産の帰属は相続開始時に生ずるものであり(民909)、この申請は法63条2項によるもので、登記原因は「相続」となる(p314)。

○ 法定相続分による登記がされた後の遺産分割は更正登記として登記上表現すべきであり、法63条2項による単独申請ができ、登記原因は権利変動の過程をわかりやすく表現するため「遺産分割」とする(p314~315)。登記上の利害関係を有する第三者の承諾が得られない場合には、共同申請による持分移転登記をする(p315)(※村松秀樹=大谷太編著・Q&A・Q125p338注1、民事月報Vol.78.5p50注2は単独申請可能)。

○ 相続人への遺贈は、それが法律行為でありその権利変動を相続によるものとみるべきではない。登記を経なければ第三者に対抗できないため登記原因を「遺贈」として法63条3項で単独申請する。遺言執行者は、同項の登記権利者でなく単独申請ができる者には当たらない(p316)。

○ AからBCDの相続でB相続の遺産分割がされれば、3年以内にBが相続登記の申請義務を負い、CDには義務が課せられない。また、法定相続分による登記がされた後の遺産分割では、分割から3年以内にBの更正登記の申請義務を負う(法76の2Ⅱ)(p387)

○ Bが特定財産承継遺言を受けていた場合には、Bが相続登記の申請義務を負い(法76の2Ⅰ)、CDは相続登記義務が課せられない(p387)。

○ 相続登記義務が課せられる場面は、土地又は建物を目的とする相続であり、所有権の登記に限られる(p387)。

○ 相続人申告登記をした相続人でも遺産分割があればそれから3年以内の申請義務を負う(法76の3Ⅳ)(p388)。

○ 指定相続分による相続登記がされた後に遺産分割がされても相続登記義務は課せられない(p388※詳細な理由説明あり)

▼ 問題状況の記載

○ 申請義務の起算点の「知った時」とは、過失により知らなかった場合は含まれず、気づかないことに相続人の落ち度があっても3年は進行しない(p398)。

○ 法定相続分の登記がされた後に特定財産承継遺言を発見しても更正登記の申請しないことに正当理由があり、申請義務は負わない(p399)。

○ 相続人に対する遺贈に伴う権利変動は、相続登記と同様に義務付けられている(法76の2Ⅰ後段)(p399)。

○ 受遺者が相続人ではない遺贈では、登記は義務付けられず、受遺者が人格なき社団で代表者が相続人であっても登記義務は課せられず、共同申請となる(p400)。

○ 法定相続分の登記をした後に相続人BCが共有で相続する遺産分割協議が成立すれば、更正登記をB又はCが単独申請できる(p400)。

○ AがBに甲土地を遺産分割の方法を指定する遺言をしていた場合、遺産分割で甲土地をCが取得すると協議することは可能であり、Bの義務は不能となり義務が解かれ、Cが協議から3年以内に申請義務を負う(p401)。

○ Aの相続人BCDのうちDの相続放棄を知らないで法定相続分の登記をした場合、更正登記の申請義務は正当な理由が認められ申請義務を負わない。また、法定相続分による登記を準備し申請をする段階で既にしたDの相続放棄を知った場合には、原則は改めで申請準備をやり直すことになるが、3年の期間の徒過が間近に迫っている等、申請を強行したとしても更正登記の申請義務を負わない場合があり得る(p401)

○ 過料を課すかどうか、正当な理由がないものとして過料に処せられるか否かは、①申請の履践の促すこと、②相続人らの権利の公示という行政施策上の成果がある程度達せられている場合(相続放棄)は正当な理由があるとすること、③申請しないことがやむを得ないと認められる事情があることの3つの観点に着目して行う(p402)

なお、気になる論点があれば、是非、山野目不登法を手に取って確認して頂きたい。合格すれば、登記の専門家として読まざるを得ない本だからである。

伊藤塾 司法書士試験科 講師 蛭町浩

不動産登記法〔第3版〕山野目 章夫 著 (有斐閣)


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