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「人的分割」とは?

 突然ですが、以下、とある問題文の一部です。

「本問においては、吸収分割契約中には、吸収分割株式会社が吸収分割の効力発生日に剰余金の配当又は全部取得条項付種類株式の取得(配当財産又は取得対価が吸収分割承継株式会社の株式のみであるものに限る。)をする旨の定めは、存しないものとする。」

「何を言っているのか全く分からない」という方も多いと思いますが、これは、要するに「人的分割の定めはないものとする」という意味になります。
この、「人的分割とは何かという話を、今回は見ていきます。

「人的分割」とは、要するに、
分割対価を、分割会社の株主がもらう場合です。
人的分割の場合は、分割会社において、債権者保護手続が必要になります。

順を追って検討していきましょう。

まず、いったん「人的分割」は忘れて、原則論から確認していきます。
合併の場合、合併の対価は、消滅会社の「株主」がもらいます。
株式交換・株式移転の場合、対価は、完全子会社の「株主」がもらいます。
それに対して、会社分割の場合、分割対価は、原則として「分割会社」がもらいます。

ところが、人的分割の場合、分割対価は分割会社ではなく、最終的に分割会社の株主に行ってしまいます。
会社分割によってA会社からB会社に1億円分の財産が承継され、その対価(1億円分)は、A会社の株主がもらうことになります。
結果、A会社の財産は、1億円減ります。

会社分割によって債務者(A会社)の財産が減る
=債権者に不利益
=債権者保護手続が必要

となります。
これが、「人的分割の場合、債権者保護手続が必要」である理由です。

会社から出て行った財産の対価を、株主がもらう
→会社の財産は減る。
→会社の債権者が困る。
→債権者保護手続が必要。
この理屈自体、難しくはないと思います。

やや面倒なのは具体的な手続ですが、ここは手続を詳細に覚えるというよりも、「問題文にこういうことが書いていたら、人的分割のことを言ってるんだな」ということが読み取れれば十分です。

人的分割を行う旨は、分割契約又は分割計画において定められます。この場合、分割対価をいきなりA会社の株主がもらうのではなく、分割対価をいったんA会社が受け取り、それを剰余金の配当又は全部取得条項付種類株式の取得対価として、株主に交付することになります(この剰余金の配当又は全部取得条項付種類株式の取得の効力は、会社分割の効力発生日に生じます。)。
なお、この手続を使うことができるのは、分割対価がB会社の株式である場合に限ります。対価がB会社の株式以外の財産である場合は、当該手続を使うことはできません。

では、冒頭の文章に戻りましょう。

「本問においては、吸収分割契約中には、吸収分割株式会社が吸収分割の効力発生日に剰余金の配当又は全部取得条項付種類株式の取得配当財産又は取得対価が吸収分割承継株式会社の株式のみであるものに限る。)をする旨の定めは、存しないものとする。」

どうでしょうか。
細かいところでひっかけてくることは考えにくいので、
「あ、人的分割の定めはないってことだな」と、大体のキーワードから判断できれば十分です。


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