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令和6年度簡裁訴訟代理等能力認定考査

2024年(令和6年)9月8日に、令和6年度簡裁訴訟代理等能力認定考査が実施されました。

私坂本も、山村拓也講師と共に、東京の試験会場に応援に伺いました。

例年、認定考査においては、試験直後は、私の雑感をノートに掲載するにとどめておりますが、多くの受験生より解答例を見たいとの要望をいただいたため、現在(2024年9月10日)において坂本の考える暫定答案を示したいと思います。

第1問
 
所有権に基づく返還請求権としての動産引渡請求権 1個

被告は原告に対して、本件ランプを引き渡せ
との判決を求める。

請求原因1
1 Xは、令和5年10月18日当時、本件ランプを所有していた。
2 Yは、本件ランプを占有している。

抗弁1 即時取得の抗弁
1 Yは、令和6年5月15日、Aから本件ランプを40万円で買った。
2 Aは、Yに対し、同日、1の契約に基づいて本件ランプを引き渡した。
抗弁2 所有権喪失の抗弁
1 Xは、令和5年10月18日、Aに本件ランプを20万円で売った。

再抗弁1 悪意の再抗弁(抗弁1に対し)
1 Yは、令和6年5月15日当時、Aが本件ランプの所有者であるとは信じていなかった。
再抗弁2 虚偽表示無効の再抗弁(抗弁2に対し)
1 XとAは、抗弁2の売買契約の際、いずれも売買契約を締結する意思がないのに、その意思があるもののように仮装することを合意した。

下線部の言い分は、再抗弁2の主張に対する予備的抗弁と位置付けられる主張となる。
なぜなら、虚偽表示による無効が問題となる場合において、民法第94条第2項は善意の第三者に無効を対抗することができないものとして善意の第三者を保護しているが、判例の立場を前提とした場合、当該規定に基づき第三者が保護される場合であっても、無効となる契約が復活するのではなく、一種の法定の承継取得としてXからYへ直接的に所有権が移転する。そのため、再抗弁に対する再々抗弁ではなく、再抗弁に対する予備的抗弁と位置付けられる。

①は、過失を基礎づける評価根拠事実になる。
なぜなら、過失の有無は、まず調査確認義務が存在したか否かによって判断するが、YがAから本件ランプの引渡しを受けた当時、本件ランプの時価は120万円を下らないものであったにも関わらず、YはAから40万円で売却する旨の申し入れを受けており、Aの処分権限につき疑念が生じたはずであり、調査確認義務があったといえるからである。

②は、過失を基礎づける評価根拠事実にならない。
なぜなら、過失の基準時は占有を取得したときであるが、②は、YがAから本件ランプの引渡しを受けた後の事情だからである。 

第2問
 
AY間の金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権 1個

1 Aは、Yに対し、令和5年9月10日、50万円を貸し付けた。
2 AとYは、1に際し、返還時期を令和5年12月10日と定めた。
3 令和5年12月10日は到来した。
4 Xは、令和6年2月25日、Aから1の貸金債権を30万円で買った。

本件訴訟が少額訴訟として提起された場合においては、司法書士QはXからの委任を受けて、Xの代理人として、強制執行の申立てをすることができるが、本件訴訟が少額訴訟として提起されていなかった場合においてはできない。
なぜなら、司法書士は、強制執行に関する事項については、少額訴訟債権執行の手続を除き、代理することができないからである。

① 司法書士Qが、自らXの訴訟代理人として本件訴訟手続に関与しており、Xから特別の委任を受けた場合において、Xを代理して控訴の提起をすることができる。

② 司法書士Qは、控訴状に攻撃防御方法を記載することはできない。
なぜなら、司法書士が代理できるのは、自ら代理人として手続に関与している事件についての控訴の提起に関する事項に限られているところ、控訴の提起に関する事項とは、第一審判決に対して控訴をする旨を記載した控訴状を第一審裁判所に提出することをいい、控訴状に控訴審における攻撃防御方法を記載する行為は、控訴の提起に関する事項には含まれないからである。

第3問
 
司法書士Rは、Yからの依頼を拒むことができる。
簡裁訴訟代理等関係業務は、その性質上、独立性の高い職務として、依頼者との間で継続的かつ強固な信頼関係が必要となることから、当該業務については、司法書士に依頼に応ずる義務は課せられていないからである。

司法書士Sは、Yの訴訟代理人となることができる。
司法書士は、かつて司法書士法人の社員等であった場合、社員等として業務に従事していた期間内に法人が相手方の依頼を受けて簡裁訴訟代理等関係業務を行った事件であって自らこれに関与した事件については、新たな依頼者のために簡裁訴訟代理等関係業務を行うことが禁じられているが、自らこれに関与していなかったのであれば、司法書士法及び司法書士行為規範に抵触しないからである。

上記はあくまでも、坂本個人の現時点での解答ですので、修正の可能性があることを御了承ください。

今回の問題ですが、

第1問に関しては、例年よりも難易度が高かったと考えています。

言い分の分量が例年よりも少なく、その分、抗弁・再抗弁として何を主張しようとしているのかが読み取りづらかったと言えます(例年に比べ、抗弁・再抗弁への誘導が弱い)。

また、虚偽表示に面食らったという方も多かったでしょう。

結果として、抗弁・再抗弁を複数抽出することが出来なかった方や、迷走した方も少なくないと推測しています。

第1問小問に出てくる

「〔Yの言い分〕の3にある下線部の言い分については考慮しないものとする。」

「小問(7)の過失の主張については考慮しないものとする。」

も、思考の邪魔をしたのではないでしょうか。

第1問の難易度を考えると、昨年の認定率(77.2%)よりも下がる可能性が十分にあるように思います。

一方で、第2問、第3問は非常に解きやすく、第1問とのバランスをとることで、認定率が大きく下がることを防止したと推測します。

ひとまず、今回の試験に向けて頑張って来られた皆さん、お疲れ様でした

伊藤塾 司法書士試験科講師 司法書士 坂本龍治


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