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北谷馨の質問知恵袋 「遺産共有」「物権共有」に関する質問

今回は、「遺産共有」「物権共有(通常共有とも言います)」に関する質問です。

Q:共有している不動産を分割するときに、「遺産分割」になるときと「共有物分割」になるときがあります。「遺産共有なら遺産分割」「物権共有なら共有物分割」ということまでは分かるのですが、「遺産共有」と「物権共有」の区別がつきません。

非常に重要かつ毎年質問の多いところなので、取り挙げたいと思います。
記述式試験では「遺産分割」か「共有物分割」か、を間違えると、大きく答案が崩れる可能性があるので、この判断は重要です。
 
まず、遺言が無かった場合を考えます。これは簡単です。
「単に共同相続しただけなら遺産共有」であり、「遺産分割が完了すれば物権共有」になります。
例えば、Aが死亡し、子BCが相続人だとします。
単に相続して共有になっている状態は「遺産共有」です。BCは、Aが生前有していた財産を、包括的に2分の1ずつ共有している状態になります。Aが生前に有していた甲土地や、宝石や、カメラや、鉛筆や消しゴムまで、あらゆる財産をBCが2分の1ずつ共有している状態になります。
 
イメージとしては、Aが有していた様々な財産を大きな袋にいれて(土地や建物も入る四次元ポケットのような袋だとしましょう)、BCが共有しているという状態です。
「具体的にどの財産」というわけではなく、全部を突っ込んだ「四次元ポケット」を共有しているというイメージです(あくまでイメージなので「おかしい」という突っ込みはごもっともですが、このまま話を続けます)。これは遺産共有です。
 
その後、遺産分割によって、「甲土地はB、乙建物はC、衣類はB…」などのように四次元ポケットから出して分けていきます。個別にBCで分けていくイメージです。これが遺産分割です。
遺産分割協議をすると、「物権共有」になります。「甲土地をB2分の1、C2分の1の割合で相続する」というような遺産分割協議をすることもあります。このような遺産分割協議を経てBCの共有になったのであれば、「物権共有」になります。
四次元ポケットから甲土地を取り出したうえで「BCの共有にしよう」と決めた(遺産分割協議をした)のであれば、甲土地をBCが物権共有することになります。
 
次に、遺言があった場合です。結論をまとめると以下の①~④ようになります。これは覚える必要がありますが、要するに「全体の割合だけ示していれば遺産共有」「特定の財産を示していれば物権共有」という着眼点になります。

①割合的包括遺贈(全財産の2分の1をX、2分の1をYに遺贈する)
 ⇒遺産共有

これは、「四次元ポケットをXYに遺贈する」というものであり、XYが四次元ポケットを持分2分の1ずつで共有することになります(遺産共有)。
この後、四次元ポケットから個々の財産を取り出して分けていくことになります(トータルでX2分の1・Y2分の1になるように分けていく)。これは遺産分割協議です。
 

②特定遺贈(甲土地の持分2分の1をX、2分の1をYに遺贈する)
 ⇒物権共有

これは四次元ポケットではなく、「甲土地」という特定の財産をXYに遺贈しているものです。このXYの共有は物権共有であり、その後の分割協議は共有物分割協議になります。

③相続分の指定(Bの相続分を3分の1、Cの相続分を3分の2と指定する)
 ⇒遺産共有

これは、共同相続人間の相続分を修正するものです。法定相続分であれば相続財産(を全部突っ込んだ四次元ポケット)をBCが2分の1ずつ共有することになりますが、その割合をB3分の1・C3分の2とするものです。
あくまで四次元ポケットをBCが共有しているので、これは遺産共有です。
この後、四次元ポケットから個々の財産を取り出して分けていくことになります(トータルでB3分の1・C3分の2になるように分けていく)。これは遺産分割協議です。

④遺産分割方法の指定(特定財産承継遺言)(甲土地の持分2分の1をB、2分の1をCに相続させる)
 ⇒物権共有

これは四次元ポケットではなく、「甲土地」という特定の財産をBCに持分2分の1ずつで相続させるものです。このBCの共有は物権共有であり、その後の分割協議は共有物分割協議になります。
 
具体的な遺言書の文言は多少変化しますが、「甲土地」というように特定されているかどうかという観点で判断すれば、試験対策上は問題ないでしょう。
上記の①割合的包括遺贈や、③相続分の指定のように、包括的な割合しか示されていなければ、それはあくまで四次元ポケットレベルの共有であって、個別具体的な財産の帰属先は、この後の「遺産分割協議」によって決めていくことになります。


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