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発行可能株式総数と新株予約権の関係

今回のテーマは、
発行可能株式総数と新株予約権の関係
です。具体的には、会社法113条4項を読み解きます。

113条4項
4 新株予約権(第236条第1項第4号の期間の初日が到来していないものを除く。)の新株予約権者が第282条第1項の規定により取得することとなる株式の数は、発行可能株式総数から発行済株式(自己株式(株式会社が有する自己の株式をいう。以下同じ。)を除く。)の総数を控除して得た数を超えてはならない。

一見すると難しそうな条文ですが、分かってしまえば簡単です。
この条文自体が頻出というわけではありませんが、理解を深めるためには良い素材です。

一言でいうと、
「新株予約権者に交付する分の株式は残しておくように」
という規定です。

計算式にすると、以下のようになります。

減少後の発行可能株式総数≧発行済株式総数+新株予約権行使による交付予定株式数-自己株式数

ただ、ここは計算式を暗記するよりも、理屈を押さえることが大事です。

まず、条文の
「新株予約権(第236条第1項第4号の期間の初日が到来していないものを除く。)の新株予約権者が第282条第1項の規定により取得することとなる株式の数」
は、要するに
「(行使期間の初日が到来している)新株予約権が全部行使されたときに、新株予約権者に交付することになる株式の数」のことです。
※以下、「新株予約権」とは、「行使期間の初日が到来している新株予約権」のことを言うものとします。

具体的に数字を入れて検討しましょう。

「すべての新株予約権が行使されると、株式を100株交付しなければならない」

とします。

そうすると、会社としては、100株は、新株予約権者のために留保しておかなければならなくなります。

例え話ですが、
「ライブのチケット100枚」の予約を受け付けたのであれば、「ライブのチケット100枚」は準備できる状態にしておかなければならない、ということと同じです。予約を受け付けておきながら「用意できませんでした」となると、大炎上です。

発行済株式総数200株・発行可能株式総数500株の会社であれば、残り300株は新株を発行できるので、まだ余裕です。
「ライブのチケット100枚の予約を受けています。ライブのチケットはあと300枚用意できます。」ということであれば、まだ余裕です。

一方、発行済株式総数200株・発行可能株式総数300株の会社であれば、これ以上株式を発行してしまうと(又は、これよりも発行可能株式総数を減少させると)、新株予約権者に交付する分がなくなってしまうので、これがギリギリの状態です。
「ライブのチケット100枚の予約を受けています。ライブのチケットはあと100枚用意できます。」という、ギリギリの状態です。
もし、発行可能株式総数を減少させて250株としてしまうと、
発行済株式総数200株・発行可能株式総数250株となり、「ライブのチケット100枚の予約を受けています。でもライブのチケットはあと50枚しか用意できません。」という、あってはならない状態になります。
これは許されないので、上記の例だと、発行可能株式総数を300株未満には減少できません。

これが「減少後の発行可能株式総数≧発行済株式総数+新株予約権行使による交付予定株式数」の意味です。

そして、最後に「-自己株式数」というものが付いています。

新株予約権者に対して100株交付しなければならないとしても、これは「新株を発行して交付する」ほか、自己株式があるのであれば、「自己株式を交付しても良い」からです。

発行済株式総数200株・発行可能株式総数300株の会社で、発行済株式総数200株のうち30株は自己株式だとすると、この会社は、「あと100株は新株発行できる」+「自己株式を30交付できる」ので、合計130株は交付できる状態になっています。
つまり「新たに入荷できるチケットは100枚だが、自分の懐に30枚入っている」という状態です。

自己株式が30株あるなら新株予約権者のために100株必要だとしても、
「発行済株式総数200株・発行可能株式総数270株」がギリギリの状態になります。
「あと70株は新株発行できる」+「自己株式を30株交付できる」ので、100株は交付できるからです。
「新たに入荷できるチケットは70枚だが、自分の懐に30枚入っているので、合計100枚は用意できる」ということです。

計算式にすると、
「発行済株式総数(200)+新株予約権行使による交付予定株式数(100)-自己株式数(30)」=「270」であり、
減少後の発行可能株式総数≧270になります。

・新株予約権者のために株式を留保しておかなければならない。
・新株予約権者には、新株を発行するか、自己株式を処分して交付する。

これが分かっていれば、細かく覚えていなくても、何とか計算できるはずです。


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