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第56回 苦手克服研究所 5分でチェック! 行政事件訴訟法 訴訟選択(記述式)

みなさん、こんにちは。伊藤塾行政書士試験科講師の藤田竜平です。今回も、受講生の皆さんが「気になってはいるけれどいまいち、よく分からない…」という学習上のポイントについて過去問を使って具体的に解説します。

さて、今回取り扱うテーマは、行政法の「行政事件訴訟法 訴訟選択(記述式)」です。

題材としては、「平成30年度 問題44(完成問題集 問題218)」を扱っていきます。まず、「平成30年度 問題44(完成問題集 問題218)」を以下に示します。

問題44 Xは、A県B市内において、農地を所有し、その土地において農業を営んできた。しかし、高齢のため農作業が困難となり、後継者もいないため、農地を太陽光発電施設として利用することを決めた。そのために必要な農地法4条1項所定のA県知事による農地転用許可を得るため、その経由機関とされているB市農業委員会の担当者と相談したところ、「B市内においては、太陽光発電のための農地転用は認められない。」として、申請用紙の交付を拒否された。そこで、Xは、インターネットから入手した申請用紙に必要事項を記入してA県知事宛ての農地転用許可の申請書を作成し、必要な添付書類とともにB市農業委員会に郵送した。ところが、これらの書類は、「この申請書は受理できません。」とするB市農業委員会の担当者名の通知を添えて返送されてきた。この場合、農地転用許可を得るため、Xは、いかなる被告に対し、どのような訴訟を提起すべきか。40字程度で記述しなさい。

(参照条文)
農地法(農地の転用の制限)
第4条 農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(中略)の許可を受けなければならない。(以下略)
2 前項の許可を受けようとする者は、農林水産省令で定めるところにより、農林水産省令で定める事項を記載した申請書を、農業委員会を経由して、都道府県知事等に提出しなければならない。
3 農業委員会は、前項の規定により申請書の提出があったときは、農林水産省令で定める期間内に、当該申請書に意見を付して、都道府県知事等に送付しなければならない。

さて、いかがでしょうか。今回は記述式の問題であり、かつ問題文も長いため、答えを瞬時に導くことは難しいかもしれません。一つひとつ確認していきましょう。

まず、以前もお伝えしましたが、記述式の問題を解く上で大事なことは、問題文が何を問うているのか?をしっかりと把握することです。

本問でこれを確認すると、「農地転用許可を得るため、Xは、いかなる被告に対し、どのような訴訟を提起すべきか。」とあります。つまり、1被告、2提起すべき訴訟の2つを解答する必要があることが分かります。

そして、解答を導く思考の順序としては、原則として、2→1となります。これは、まずは2の提起すべき訴訟を定めなければ、1の被告について解答することができないことが理由です。そのことを前提に、問題文を見ていきましょう。

問題文を見ると、本問は、「農地転用許可を得るため」に、提起すべき訴訟が何か、ということが問われていることが分かります。行政側に農地転用許可をしてもらうことを求めるということなので、まずもって想起していただきたい訴訟は、「義務付け訴訟」です。

そして、「義務付け訴訟」には、「申請型義務付け訴訟」と「非申請型(直接型)義務付け訴訟」の2種類があります。義務付け訴訟の検討をする際には、どちらの訴訟を選択するかを判断しなければなりません。そのための判断の基準となるのは、当該処分が申請を前提としているか否かです。

本問でこれをみると、農地法4条2項に、「前項の許可〔農地転用許可〕を受けようとする者は、…申請書を…提出しなければならない。」とあります。したがって、農地転用許可処分は、申請を前提としているということが分かります。とすれば、本問における義務付け訴訟は、申請型義務付け訴訟
ということになります。

そして、申請型義務付け訴訟の場合、一定の抗告訴訟を併合提起することが要件とされています。ここでいう一定の抗告訴訟とは、不作為の違法確認訴訟、取消訴訟、無効等確認訴訟の3つです。

本問においては、A県知事は、Xからの申請に対して何の処分もしておらず、未だ不作為の状態が続いているといえます。したがって、Xが併合提起すべき訴訟は、不作為の違法確認訴訟ということになります。

ここまでくればあとは簡単です。農地転用許可処分の権限を持っているのはA県知事であるため、被告はA県ということになります。よって、2の提起すべき訴訟は、不作為の違法確認訴訟と農地転用許可の義務付け訴訟、1の被告は、A県ということになります。

以上より、解答としては、「A県を被告として、不作為の違法確認訴訟と農地転用許可の義務付け訴訟を併合提起すべき。」ということになります。

このように、記述式の問題を解くうえで必要な知識は、5肢択一式対策の知識で足ります。本試験においては、完全解を目指すのではなく、キーワードを拾う意識で解答する意識を持つことが重要です。

本問においては、A県が被告であるということ、及び2つの訴訟という計3つのキーワードのうち2つをあげることができれば、十分合格レベルでしょう。本試験では、「おそらく解答に関係あるであろうキーワード」を、1つでも多く記述する意識で進めていきましょう。

今後も、試験合格に役立つ知識をお伝えしていく予定ですので、日々の勉強の息抜きにご活用ください。