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プラウベルマキナ買えなかった

しばらく使っていなかったクレジットカード。年会費が引かれていたので解約した。

このカードに鋏を入れ始めたら、使っていた当時を思い出した。

学校を卒業してから、しばらくこのカードにはお世話になった。ただ、買えなかったものもあった。

当時は、写真が好きで、生活のほとんどを写真関連に費やしていた。写真もまだデジタルよりフィルムが主流で、現像とプリント(いわゆる同時プリント=「同プ」)が税込み500円でできるような時代だった。100円ショップにも24枚撮りフィルムが売っていたりもした。

写真撮り始めは、コンパクトカメラや一眼レフを借りたりしていたものの、撮っても撮ってもあまり進歩せず、写真家などを知るたびに、いいカメラならいい写真が撮れるのではないかと勘違いし始めた。

写真集や写真家の著作を読んでいると、たまに見聞きするカメラがあった。「プラウベルマキナ」という名前だった。一番よく使っていた35mmフィルムよりも大きいサイズのフィルムを使う中判フィルムカメラ。アラーキーこと荒木経惟さんやホンマタカシさん、金村修さん、石川直樹さんなどが愛用していたと思う。あまりごつくないシンプルな見た目も気になった。

写真誌の巻末にあった、カメラ店の広告で相場を調べてみた。すでに生産は終了しており、中古カメラの扱いだった。しかし高い。最高だと20万円以上だった。今思えば、カメラ本体でそれくらいの値段はあり得るのだろうが、当時はそんな金額のものなど範疇にも入ったことがなかった。とはいえ現物を見て自分の気持ちを試すことにした。

当時、まだ東京には中古カメラ店が多くあった。新宿や中野あたりに行けば見つかるだろうと勇んだが、どうやら人気で、市場に出るとすぐに売れてしまうようだった。ようやく見つけた一軒で出会ったのは「プラウベルマキナ67」という名前だった。

現物を見た瞬間、「これは買うしかない。プロになれる」と思ってしまった。値段はぎりぎりクレジットカードを使えば手が届きそうだと考えた。

レジで会計をしたところ、店員が首をかしげた。カードが使えないらしい。よく考えると限度額を超えていたようだった。

まあ、高望みはできないな、身の丈に合わせてコツコツ撮っていくしかないかと目を覚ましたが、しばらく経ってまたプラウベルマキナ熱が再燃した。

銀座でたまたま入った中古カメラ店で、久々にプラウベルマキナと対面した。カメラが入ったガラスケースの傍に、テスト撮影しかもプリントもできると案内があった。ふと試してみることにした。

店内から、先ほど歩いていた銀座の街並みを撮っただけ。それだけのテスト撮影なのに、妙な高揚感があった。

スマートフォンやデジタルカメラで撮っていると、撮影結果がすぐ確認できるが、フィルムは現像という待ち時間がある。そのテスト撮影の現像待ちは一時間ほどだった。

上がってきたプリントを見て驚いた。ピントが少し合っていなかったものの、普段自分が撮っているものとは明らかに違う色、世界に見えてしまった。フィルムサイズが違うのだから当たり前なのだけど。

「これは買うしかない。今度はプロになれるかもしれない」と思った。

クレジットカードの限度額は超える。しかし、このカメラ店にはどうも「カメラローン」のような仕組みがあるらしかった。もうこの再燃は引き下がれないので、申し込むことにした。

ファックスや電話にて申し込みをするようだ。店員が電話を切る。どうやら審査落ちしたようだった。

プラウベルマキナは買えなかった。それから少しして、写真を撮らないようになった。きっかけだったかはわからないが、糸が切れたようだ。生活を言い訳にしたのだと思う。

プラウベルマキナは、今でも一定の人気があるらしい。修理も大変、フィルムもなくなりかけているようだが、このカメラに惹かれる人がいるのはとてもよくわかる。あの時感じた、写りを越えた痺れは忘れないと思う。

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