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UIデザイナーが2020年に買って良かった本

こんにちは、スペースマーケットでUIデザインを担当している伊東です。
昨年に続いて、今年もUIデザインに関連した本の振り返りをします。

昨年度の文中で触れているように、スペースマーケットのデザイン部では書籍の購入費用を負担してもらえる制度が存在するのですが、今年はリモートの比重が増え、リアル出社と頻度が逆転したために"購入書籍をオフィスへ置いておいて好きな時に読んだり持ち帰って読む"といった去年以前のような運用が難しくなりました。

この点については後でも触れますが、ひとまず今年に関しては

"デザイン部という組織として書籍を購入するような運用はあまり行わず、個々人で好きに買って読んだ書籍"

に絞った形であることを前提に、早速メインコンテンツとなる各書籍の紹介に入っていきます。

1. オブジェクト指向UIデザイン──使いやすいソフトウェアの原理

今年はなんと言ってもこの一冊だと思います。

昨年以前までも著者やその周辺・組織による OOUI の啓蒙は各所で行われていた印象ですが、その思想の背景まで地続きに記したドキュメントともなると広大なボリュームが要求され、ソーシャルネットワークにおける発信の範囲内では単に OOUI をUIデザインにおける一つの手法として取り上げられるのに留まりがちなように感じていました。

実際には OOUI とはUIデザインの新たな手法というわけではなく、人間と道具の元来の在り方に基づいた根源的な概念であり、その辺りの存在論・道具論などの観点からも歴史的背景や先人の発言を引用しつつ、体系的に説明するよう配慮されている印象の書籍です。

書籍自体の本文構成として、そういった思想や背景についての章は後の方に配置されており、基礎知識や参考例となる OOUI パターンは前半〜中盤辺りで豊富に紹介されています。そのため、すぐにソフトウェアデザインの業務で参照しやすい章立てで構成された隙の無い内容に感じました。GUI のデザインに携わる人にとっては決定版とも呼べる一冊なのではないでしょうか。

著者のソシオメディア 上野さんによるこちら「Modeless and Modal」も補助的にいかがでしょう。元々は著者自身のブログで投稿されていた内容を書籍化したもので、OOUI と近しい領域のトピックまで切り込んだこちらのコンテンツは、OOUI の思想的背景などをより深く体験するのに最適であるように思えます。

また同氏が登壇発表された際の動画も、本書のプレ読書的なコンテンツとして、OOUI 入門におすすめです。再生地点の指定付きで埋め込んでいますが、登壇自体はおよそ1時間8分あたりから。

2. Form Design Patterns ―シンプルでインクルーシブなフォーム制作実践ガイド

WebアプリケーションなどソフトウェアのUIを設計する際にはもはや必須と言える、ユーザーが操作・入力するフォームに特化したボリュームたっぷりな一冊です。

最大の特色として、ビジュアルデザインの観点というよりはその実用性観点からの勘所や、マークアップ・実装に関しても豊富に例示されている点が挙げられるでしょう。また、アクセシビリティ観点での目配せも行き届いた一冊となっており、およそ2020年代に要求されるようなWebアプリケーションのフォームデザイン・実装に関する一通りの知見が網羅された、一家に一冊的な書籍です。デザイナーというよりはむしろフロントエンドデベロッパーにおすすめですかね。

個人的には、黄色が印象的な装丁に凝った加工が施されていたのがとても素敵で、フィジカルとしての所有欲が満たされる仕上がりに感じられました。

3. 欧文タイポグラフィの基本

上に挙げたような、ソフトウェアのUIなどに要求される情報設計の書籍を読んでいた一方で、事業会社のデザイナーとしてはグラフィックデザインの比重が大きい製作物を手がける場面も多いもので、そういった際に今まで何となく勘で調整していた文字組みをちゃんとやっておきたい気持ちが強くなり、結構前から定番みたいになっている感のある本書を購入した次第です。

専門学校などで体系的に学ぶ機会の無かった自分としては、勘で視覚調整していた部分がほとんどでしたので、その点に関しての知識や裏付けが欲しかったという思いがあり、そんな自分の需要にぴったり応えてくれるような程よいボリューム感と内容の一冊でした。

購入してから気付いた点として、横長の特徴的なサイズ感になっていて本棚での収まりが悪く、本書自体を他の書籍とどのように本棚の中で並べて組むか、という課題が発生しています。

4. Creative Selection Apple 創造を生む力

完全に趣味的な選出です。

ソフトウェア・GUIデザインの脈絡において Apple やそのプロジェクトに携わったデザイナーたちが道を切り開いてきた側面が大きい、というのはUIデザイナーであれば広く共有されている認識だと思われますが、本書は iPhone, Safari など現在でも広く愛用されている Apple プロダクトの開発工程における幾多のおもしろエピソードを通して、Apple が何を重視していたか・どんな軸でプロダクトをデザインしていたかが垣間見える一冊でした。

UIデザインのみに絞った内容ではありませんが、プロダクト設計の過程で発生するアイデア出しやコンセプト、意思の決定から社内政治的な領域まで、思わず共感してしまったり、なるほどと思わせられる開発現場の事実を振り返る内容です。

現在、最も普遍的に利用されているプロダクトの開発工程におけるさまざまな意思決定や判断軸などを知ることは、UIデザイナーにとって魅力的なプロダクトをデザインする上で少なからず良い影響となるのでは無いでしょうか。

総括

昨年版の記事を読み返すと、2019年はUIデザインに関する横断的な知識をまとめたような書籍を何冊か買った印象でしたが、2020年は「情報設計」「インターフェース部品」「文字組み」などそれぞれの要素を深く掘り下げた書籍を少数精鋭的に揃えて読んだような感覚がありました。

最初に書いたように、デザイン部として組織の図書館的に購入した書籍を回し読みするような文化は現在も知見共有に有効な素晴らしいものだと思っているのですが、リモートだとこういった運用はやりにくいものなので、この辺り電子書籍も含めてもう少し何か上手い運用があれば…という課題感を抱えています。

(個々人で買えば済む話ですし、ここに挙げたような書籍はUIデザインに携わる人なら必携レベルの良書ばかりなのでどちらにせよ購入して手元に置いておくのが望ましい感じもありますが、制度として存在する以上は上手く活用したいものです)

引き続き2021年も、自身やデザインに活かしたくなるような知見を吸収できる素晴らしい書籍と出会えればと願うばかりです。

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