見出し画像

家電開発者になり11年間、独身ひとり暮らしを続けている男による家電の選び方ガイド ~空気清浄機 パナ編~

空気清浄機の開発にも携わったことのある俺が、コロナ禍の今買うなら、どの空気清浄機を選ぶかという記事。第3回のパナソニック編。もし過去回が未読ならば、是非読んで頂ければ幸いだ。
(第1回:ダイソン編 第2回:シャープ編

免責

このnoteの内容を信じて、何らかの商品を買ったとしても、君に起こるあらゆる出来事は、全て君の責任だ。幸福も不幸も全て君のものだ。

このnoteは、広告など第三者への利益を目的とするものではなく、君からいいねを貰うためだけに書く。その点にのみ、俺は責任を持つ。

日本で最初の空気清浄機はパナソニック

という風にWikipediaには書かれているが、パナソニックは発売元であって、開発したのは子会社の松下精工(現在のパナソニックエコシステムズ)という会社だ。松下精工は元々、川北電気企業社という明治創業の会社で、日本で最初の扇風機を作った。特徴的なファンガードで、大正・昭和初期が舞台のドラマなどでは小道具に使われたりもするので見覚えがある人もいるのではないだろうか。

画像1

日本で最初の扇風機(大正2年)

この扇風機がヒットして以来、川北電気企業社は、松下精工、パナソニックエコシステムズと名前を買えながらも、扇風機や換気扇、加湿機、除湿機、といったIAQ(室内空気質)商品を100年以上開発し続けてきた。信頼と実績という観点で空気清浄機を語るのならば、日本一の会社だ。

画像3

日本で最初の空気清浄機(昭和37年)

家電というのは、様々な人々が様々な環境で使用する。問題が発生するのは、変な使い方をするやつがたまにいて、家電開発者は変なやつが使っても壊れない家電を作る必要がある。例えば、先述の最初の空気清浄機は、見るからに上面にビールを置きたくなる形をしてる。人類の数%は、平たい空間があればそこにビールを置かずにはおれないのだ。そして、必然として空気清浄機を蹴飛ばし、ビールは零れ、中の電子機器にダメージを与える。

加湿空気清浄機 F-VXT55(2020年11月モデル)

画像3

最初の空気清浄機から58年後の最新モデルがこれだ。製品上面を見て欲しい。全てが斜面になっており、更には操作ボタンも上部に付いている。こいつの上にはビールも、何も、一切載せる気はないぞ、という開発者の強い意思が見て取れる。家電における品質とは、このようにちょっとしたアイデアや機能改善の積み重ねで作られている。

ウィルスについて訴求をしない

この加湿空気清浄機のF-VXTシリーズでは、新型コロナや、ウィルスという文言がほぼ出てこない。フォーカスしてるのは基本的には花粉だけだ。

画像4

2020年モデルのキャッチコピー一覧

ナノイーは相変わらず搭載されているが、こちらも基本的には花粉にフォーカスしている。コロナ禍という空気清浄機にとってのビッグビジネスチャンスに、パナソニックはウィルスに対してかなり抑制的なスタンスを取っていることが分かる。

画像5

2020年のナノイーはスギ花粉に効くアピールをしている

かつてのビッグチャンス、新型インフルエンザが世界的流行となった2009年のナノイー発生器のプレスリリースを見てみると、ウィルス全押しとなっている。時代と共にコンプラ重視となり、控え目な表現をとるようになったことがよく分かる。

画像11

2009年のナノイーはウィルスに効くアピールをしている

まあ、結局のところ、プラズマクラスター同様に、ナノイーもビジネス上の価値しかない。副生産物であるオゾンには殺菌作用があるものの、生成量は少なく、実際の生活環境は常に人の出入りや換気がされているため、生活環境に対して殆ど何の影響を及ぼさないと思われる。それ故に健康被害も起こりようがない。安心して忘れると良いだろう。

ちなみに、主要各社がオゾンについて何の言及もしていないのは、かつて高度成長期に光化学スモッグが社会問題となった際に、オゾンはその主要素の一つでもあったため、非常にイメージが悪かったというのもある。そこで、ナノイーやプラズマクラスター、ストリーマ放電など、直接的な表現を避けた技術ブランディングをしてきたのが続いているのだと思う。

画像10

逆に過去からそうした技術ブランディングをしてない、後発組のマクセルなんかは、普通にオゾンでウィルス除去!というノリの製品を最近出していたりする。しがらみが無いって素敵だよね。

画像11

ウィルスについて訴求をする

話をパナソニックに戻そう。パナソニックが空気清浄機で、ウィルスについて抑制的なスタンスを取っているのは、「空間除菌脱臭機」という商品ラインナップをもっているというのもあるだろう。構造的にはさして変わりはないのに、こっちのほうが単価は各段に高いので、利益率が良いはずだ。

画像6

空間除菌脱臭機「ジアイーノ」(2020年モデル)

これは室内空間に次亜塩素酸水を放出して、除菌脱臭を行おうというものだ。次亜塩素酸水は、食品添加物(殺菌料)として厚労省に指定されており、食材や機具の洗浄によく使われている。パナソニック的には元々は買収した三洋電機の自販機開発で培った技術であるらしい。ただ、三洋電機の自販機事業(三洋電機自販機(株))は、富士電機に売却されたので、内部的な技術開発がどのように進んだのかはよく分からない。詳しい人がいれば是非教えて欲しい。

画像7

ただし、特定のウィルスへの効果について言及すると薬機法に抵触するため、ジアイーノはインフルエンザやコロナウィルスに効果があるとは言っていない。実際、ウィルスへの効果確認試験も、そんな危険なウィルスを使ってやらないので、何のウィルスに効果があるかはよく分からないのだ。

画像10

ただ、オゾン(ナノイー)に頼らない除菌方法なのでアピールしやすく、「空間除菌脱臭機」という他社にはない領域なので、刺さるユーザーには刺さる。営業側からするととても売りやすい商材なんじゃないかと思う。自動販売機内の除菌装置から、ここまで持って行った開発者はかなり凄い。

まとめ

パナソニックの空気清浄機を総評すると、

・ウィルスについて訴求すんのかいせんのかい

大阪を代表する企業が、ビジネスとコンプラとテクノロジーの合間で、日々ベストを尽くしてきた結果が、まるで大阪を代表する舞台のようになってしまっているのは奇跡としか言いようがない。君もこの新喜劇を楽しむと良いだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?