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家電開発者になり11年間、独身ひとり暮らしを続けている男による家電の選び方ガイド ~空気清浄機 ダイソン編~

空気清浄機の開発にも携わったことのある俺が、コロナ禍の今買うなら、どの空気清浄機を選ぶかという記事。書いてみたら思ったより長くなったので、パートを分ける。今回はダイソン編。

このテーマは、以前に書こうとしてたけど一回断念していた。というのも、空気清浄機というのは非常にややこしいプロダクトで、前提がいくつも必要となる上に、その前提もそもそも要るのか?という議論もある。要は話が長くてしんどいんだ。書く方の俺はまあ楽しいんだが、余りにマニアックだと読む君はちょっとしんどいだろう?だから、今回は雰囲気。ややこしいんだなという雰囲気を楽しんで貰えればと思う。

免責

このnoteの内容を信じて、何か商品を買ったとしても、君に起こるあらゆる出来事は、全て君の責任だ。幸福も不幸も全て君のものだ。

このnoteは、広告など第三者への利益を目的とするものではなく、君からいいねを貰うためだけに書く。その点にのみ、俺は責任を持つ。

基本的な考え方

家電全般に言えることだが、空気清浄機というものは単なる道具であって、そこで生活する人々の暮らしの改善が主たる目的となる。例えば、洗濯機は、洗濯する時間や手荒れを改善し、冷蔵庫はいつでも冷えた飲み物が飲めたり、食べ物を長期間保存することが出来て快適だ。しかし、24時間営業のコインランドリがすぐ近くにあれば洗濯は簡単にできるし、コンビニなんか街中に溢れまくってるので冷蔵庫を持たなくても余裕で僕らは生きていける。日本では高度に発達した社会インフラが、僕らに持たない自由を提供してくれているのだ。

持たない自由を放棄して、何かを買うということは、専有した方がメリットがあるという判断に他ならない。特に今回のテーマである空気清浄機は、本来、誰にでも無料で提供されている空気を、金を出して専有するために使う装置だ。もう少し簡単に言えば「自分のための空気を作る道具」といってもいいだろう。

自分のための空気

君は金を出して「自分のための空気」が欲しいだろうか?コロナ禍の今なら欲しいと思うかもしれない。実際、過去に空気清浄機が売れたのは、人々の不安が高まった時だ。古くは高度経済成長期に、光化学スモッグが問題となっていたころ日本で最初の空気清浄機がパナソニックから販売された。以降、排気ガス、喘息、花粉症、換気困難な高層マンション、分煙、PM2.5、新型インフルエンザなど様々な問題に対して、パーソナルな空気が欲しいと思う人々に、様々な空気清浄機が販売されてきた。

「様々な問題に対して、様々な空気清浄機が販売された」

空気清浄機がややこしい点はここだ。多様化したニーズに、多様なソリューションが存在するのだ。「空気を清浄する」という単一の目的の為に作られたかのように装ってるが、実際は全然そんなことが無い。しかもその品質基準も各社まちまちなのだ。具体的に見ていこう。

Dyson Pure Hot + Cool Link

記事作成時点(20年8月10日)で、一番売れてるのがダイソン社製のPure Hot + Cool Linkだ。

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Pure(清浄)、Hot(ヒータ)、Cool(送風)、Link(スマホ連動)という、世界で一番頭の悪い名前の空気清浄機だ。豚骨にぼしラーメン背脂マシマシみたいなノリなので、マーケティングという仕事がいかにバカがバカの為にしている商売かというのが良く分かる。

もう分かりづらい

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商品ページを見ると、「PM0.1レベルの微細な粒子を自動で99.95%除去」「多くの有害なガスも除去」と書いており、凄いじゃんと思うが、注釈が3つも付いている。

<注釈2>
欧州規格EN1822に準拠し、ダイソン(英国)が2019年7月に実施した、0.1µmの粒子を使い最大風量にて行ったフィルター性能試験。 日本国内売上台数上位25機種の空気清浄機(2018年10月から2019年3月の市場調査会社データに基づく)が対象。 上記数値は、フィルターの性能試験に基づく性能であり、実機の性能とは異なります。このフィルターでは0.1μm未満の微小粒子状物質については、除去の確認ができていません。また、空気中の有害物質のすべてを除去できるものではありません。PM 0.1とは0.1μmの大きさの微小粒子状物質です。

はい、もうややこしい。ややこしいので逐次解説を行う。

フィルターの性能試験に基づく性能であり、実機の性能とは異なります

フィルタの性能が良いなら、実機の性能もいいのでは?と思うかもしれないが、そんなことは全く無い。0.1µmという微粒子は、容易にパーツの隙間を潜り抜けることが出来るサイズであるため、上手く設計されてなければ、フィルタを迂回して微粒子が流れる。そのため、「PM0.1レベルの微細な粒子を自動で99.95%除去」というのを正しく言えば、「PM0.1レベルの微細な粒子を99.95%除去できるフィルターをつけているが、ちゃんと除去できるかどうかは確認してない」となる。

空気中の有害物質のすべてを除去できるものではありません。

こちらは注釈3とも重複する内容なので、注釈3も見てみよう。

<注釈3>
(社)日本電機工業会規格(JEM1467)および中国標準規格(GB/T18801)に準拠し、自社および第三者機関[Fraunhofer(ドイツ)、SGS(中国)]が実施したVOC(酢酸、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、ベンゼン)の測定試験結果。試験での測定結果であって実使用空間での実証結果ではありません。上記以外の有害ガスについては確認していません。

VOC(揮発性有機化合物)の内、4種類の試験を行っている。大体この4つが家庭環境では問題になる(タバコや壁紙の接着剤など)ので、それは良いのだが、どの程度吸着できるのか、どの吸着能力が維持されるかについては記載がない。つまりオマケだ。数日か良くて数週間程度なら効果があるかもしれないが、基本的には、メーカーがカタログに有害ガスを除去と表記するためだけに付属しているゴミだと理解するのが素直だと思う。

ウィルスを除去する(除去するとは言ってない)

また、今話題のウィルスの除去についても注釈がある。

<注釈I>
試験機関:(一財)北里環境科学センター。試験方法:25m³の試験空間で日本電機工業会規格(JEM1467)の性能評価試験にて実施。
対象:浮遊したウイルス。試験機:HP03。試験結果:62分後に99%除去。試験報告書:北発生2016_0301号。

レポートは読んでいないので何とも言えないのだが、ここまでの評価方法から察するに、フィルター単体の性能じゃないかなと思う。また、浮遊したウィルスとあるが、使われているのは大腸菌ファージなので、コロナに効果がどの程度あるかは不明だし、壁などに付着したウィルスには何の効力も無い。あと、殺菌機能などは無いので、フィルターにウィルスが吸着したあとはずっと空気清浄機内に残っている。あまりウィルスについて詳しくないので想像だが、実機環境では吸着したあとのウィルスを再放出するケースもいっぱいあるんじゃない?と思ったりする。

基本スペックすら分かりづらい

基本スペックも確認してみよう。

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こちらも注釈がついているが、やはりややこしい。

*V (社)日本電機工業会規格(JEM1467)に基づき算出。
*VIII  自社基準に基づき算出

適用床面積は、8畳とあるが、これはJEM1467の空気清浄能力試験が微粒子の吸着能力のみ規定しているせいだ。上述のウィルス除去試験では25m³の試験空間で評価とあるが、これは日本の建造物だと5畳~6畳程度のサイズとなるので相違がある。また、23畳(60分)は、ダイソンの独自基準であり言ったもん勝ちなので何の参考にもならない。単純に考えて、8畳と23畳では、2.9倍の差がある。時間が30分から60分に倍になったとしても計算が合わない。

話は少し飛ぶが、ウィスキーの山崎10年とかは、最低10年以上熟成させている原酒のブレンドという意味らしい。シンプルで分かりやすい。

一方、ダイソンの空気清浄機の性能は、
・粉塵除去 8畳(JEM基準)
・粉塵除去 23畳(ダイソン基準)
・粉塵除去(PM0.1) 0畳(基準なし参考値)
・ウィルス除去 6畳(JEM基準)
・化学物質除去 0畳(基準なし参考値)
となる。

これはウィスキー理論でいけば、0畳用になると思うのだが、例えば価格ドットコムでは23畳用として売ってるので、注意が必要だ。

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まとめ

ダイソンの空気清浄機を総評すると、

・0畳用
・デザインはカッコいい

となる。「自分のための空気を作る道具」としてこれを選ぶ場合は、自分の要求とマッチしてるか検討してみると良いだろう。

第2回:シャープ編
第3回:パナソニック編

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