カラオケに滅多に行かない

　私はカラオケに滅多に行かない。理由はシンプルで、私が歌う曲をみんな知らないからである。コロナ禍以前は、職場の人間と行かないこともなかった。送別会などで、断れなかったのだ。
　私がうたうと、「なにこの曲？」「聴いたことがない」「へんな曲」（ムーンライダーズだ）といわれることが多い。ので、そんな曲に耐久性がある妻くんとたまに行くことがある。４年に一回とか（オリンピックのようだ）。
　先日、いろいろな理由が重なり、東京に出てきた高齢の母親と初めてカラオケに行くことになった。妻くんもいっしょである。
「この人が、歌をうたったところ、見たことない」
　と私を指して、母親が言った、だろうな。歌ったことがないから。
「家ではいつも音楽を聴いていたけれど。あんた、歌をうたうの？」
　母親が尋ねた。
「うたわない」
　と私は即答した。
「うたいます」
　妻くんは言った、
「え？」
　私は驚いた。４年に一回、カラオケに行くのをうたうというのだろうか？
　そのあとで、母親の知らないムーンライダーズばかりを私がうたったのは、言うまでもない。