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「堀川正美詩集」

「堀川正美詩集」

 堀川正美さんの詩は、一時期よく読んだ。知性と感性、そして時代(60年代)がスパークする磁場に立ち会っているような気がする。

 時代は感受性に運命をもたらす。
 むきだしの純粋さがふたつに裂けてゆくとき
 腕のながさよりもとおくから運命は
 芯を一撃して決意をうながす。けれども
 自分をつかいはたせるとき何がのこるだろう?

 恐怖と愛はひとつのもの
 だれがまいにちまいにちそれにむきあえるだろう。
 精神と情事ははなればなれになる。
 タブロオのなかに青空はひろがり
 ガス・レンジにおかれた小鍋はぬれてつめたい。

 時の締切まぎわでさえ
 自分にであえるのはしあわせなやつだ。
 さけべ、沈黙せよ。幽霊、おれの幽霊
 してきたことの総和がおそいかかるとき
 おまえもすこしぐらいは出血するか?

 ちからをふるいおこしてエゴをささえ
 おとろえてゆくことにあらがい
 生きものの感受性をふかめてゆき
 ぬれしぶく残酷と悲哀をみたすしかない。
 だがどんな海へむかっているのか。

 きりくちはかがやく、猥褻という言葉のすべすべの斜面で。
 円熟する、自分の歳月をガラスのようにくだいて
 わずかずつ円熟のへりを噛み切ってゆく。
 死と冒険がまじりあって噴きこぼれるとき
 かたくなな出発と帰還の小さな天秤はしずまる。

        (「新鮮で苦しみおおい日々」)

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