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らくらくホンを買う日を想像する

題字:タナカカツキ

「老い」の永遠の初心者として、「はじめての老い」についての書きなぐるシリーズ5回目です。過去記事はここにまとまっています。
https://note.com/itogabin/m/mfadfc4b35ea7

本日のお題は「新しい機械についていけなくなる」問題。からの「老いとスマホ」の関係について。

みなさんは、自分がらくらくホンを買う日を想像したことがありますか?
そうです、正確な名前は知らないけど、キャリア各社が出しているシニア向けのケータイです。ここでは雑にらくらくホンと言っています。

docomoのサイトより

僕は最近まで、全く考えたことがなかったというか眼中になかったのですが、「らくらくホン問題」を考えてみると、
結論としては「どう考えても買う」なんですよね。
いや正確には「買わされる」、もしくは「買い与えられる」かもしれません。

若いみなさんは他人事だと思っていると思いますけどね。
でも、いや、買うんじゃないかな。みんな買う。いつかは買う。買わされる。買わざるを得ないんじゃないだろうか。
理由を書いていきます。

らくらくホンに対して「スマホに対応できない老人が使うものプププ」と思っている人は多いのではないしょうか。しかし、らくらくホンを買う理由ってそれだけじゃないんですよね。むしろ使いこなし過ぎてスマホを禁止される流れのほうがリアルなんじゃないかと。

一般論を書く前に僕自身のことを書きますが、僕はとくに新しい機械が苦手なわけではありません。
職業としてスタートは、ASCIIっていうまあ言うたらコンピュータがらみの会社のコンピュータホビー雑誌LOGiNの編集部だったので、毎日のように新しいガジェットや技術にビタビタに浸っており、ブツを買いまくる日々でした。それからウン十年経つわけですが、新しいガジェットに対する興味はいまだに人並み以上にはあります。いまではさして魅力的ではなくなってしまったWDCの日はなんとなく夜ふかししてしまうし、深センの勢いある連中の記事なども必要以上に読んでしまっています。

だから、自分はこのまま「ガジェット好きじいさん」になっていき、新しいテクノロジーについていけない感じにはならないかも〜、と高をくくっていたわけです。

ところがねー。思わぬところで、あ、これはついていけない瞬間が来るんだな、と思ったことがあるんです。

「いや、こっちのほうが便利やし」問題


1年くらい前ですかね。友人の映像作家の島本塁さんとアートディレクターの阿部洋介さんをクルマの後部座席に乗せてたことがあったんですね。その時、京都出身の島本さんの家にいってみよー!ってことで僕のクルマで行ったのですが
「じゃあ、この坂、バックで登ってください」
と島本さんに言われたわけ。
そして僕はハイハーイってな具合で、例によって助手席に片手をかけながら、後部座席のほうに体をねじってバックしはじめたんですよ。結構な狭い道で、緊張しながらね。
そしたら阿部さんが、阿部さんを知っている人ならわかるいい感じの笑顔で
「ガビンさんて、バックモニター見ないんすね」(にやにや)
と言う。
え?
え?
た、たしかに!?
って、その時初めて、バックモニター見ない派の自分に気がついて、酷く動揺してしまいまして、側溝に落ちました。これギャグみたいですが、マジなんで。ゴコーンという音とともに後輪を側溝に落としました。京都の側溝の多さ、しゃれにならない。でまあ、みんなに手伝ってもらって、おりゃあ、と持ち上げてどうにかなったんだけど、あんときは焦ったじぇ…..。

そうなんですよ。バックモニターを、僕は見ない。というか、見ても、よくわかんないんですよね。

東京に住んでいて、10年以上前にクルマを手放しました。もうクルマ生活をすることないだろうなあ、と思っていたんだけど、京都に引っ越しまして、しかも駅から徒歩20分以上かかる場所だったりもして、地方あるある的にクルマを入手してしまったんです。そして10年前に乗っていた車にはバックモニターがついていなかった。
つまり玉手箱をあけたら、突然車にバックモニターなるものがついていた、と。便利だよね、バックモニター。
でも。
長年の、腰ひねり型後方確認で不便を感じたことない僕にとっては、無用の長物という認識だったわけですよ。いらんし、と。腰ひねるし。腰ひねって見るし、と。
しかし
「ガビンさんて、バックモニター見ないんすね」(にやにや)
という一言によって、ウッ、となったんです。
あ、これはあれだ、新しいテクノロジーについていけてないやつだ、老いだ。とね。

この
「いや、こっちのほうが便利やし、いらんし」
というのは、あらゆる人が一度は思うやつなんじゃないですか?
妻は、頑なにフリック入力をしないんですよ、キーをバババと連続して打つ。そのほうが早いし、フリック入力いらんし。わかる。わかるよ。
カメラ買いました、オートフォーカスうざいし、マニュアルでいいでしょ、その方が早いし、正確やし。わかる。
でもね、それもまた「老化」の階段を登る第一歩なのかもしれまへんで。
どう考えても「こっちの方が便利やし早いやろ!」という態度ね。ここらあたりに「ほんとにそう!」と「ついていけない、老化」の境目があるように思えてきました。

つまり「新しい技術」「新しい環境」に対して、対応できないんじゃなくて、「そんなんいらんし」と採用しない仕草。これがいつのまにやら「新しい技術に対応できないじいさん」を生み出すということかもしれませんよ。ここ、非常に面白いポイントだと思います。

凶器としてのスマホ

それはさておき、もうひとつの理由として、
老人がスマホ持つの危険問題
っていうのがあるわけですよ。

いまのスマホは、なんでもできるでしょう?
高齢者が娘夫婦に頼まれたものを「ペイペイ!」の声高らかにスーパーで買い物もできるし、アマゾンや楽天で孫へのプレゼントを買うこともできる。ピッと改札を通ってアクティブに旅行へ出かけられるし、オープンワールドのネットゲームで世界中の人と交流することもできる。

裏返せば、重複してる食材をスーパー毎日ペイペイ!して、いらんものをアマゾンで買いまくり、誰にも告げずに電車でどこまででも移動できて、ネトゲ廃人となりガチャを無限に回し続けることもできるんですよね。
カルト宗教にハマって壺を買うことは傍目からも危険とわかるじゃないですか。でも、健康を求めて高価で効果レスな酵素ジュースとかを買いまくったり、有名ソムリエが選ぶワインセレクション毎月届きます、みたいなものをサブスク契約したりするのは、家族からしても判断を迷うところですよね。でも、いろいろとタガが外れてくるのが「老い」の特徴でもあるので、ちょっと怖いなあと思うんです。

スマホでなんでもできるようになったね〜、というのは、便利と危険の隣り合わせってことでもありますね。
僕は、まったく自分が信用できないんです。なんでもできる凶器をいつもポケットに入れておくことが、だんだんと不安になってきそうな気がする。というか今でも危険だ。たすけてくれ。なんでアマゾンから毎日本が届くんだ。ただ積まれていくだけなのに。

老人の免許返納に関しては議論を目にすることがたくさんありますが、人こそ轢かないものの、周りの人への迷惑可能性としては、スマホだって十分に高い。
クルマの免許返納がいつか求められるなら、それに先んじて、自分はスマホを返納しておきたい。万能の機械を老いた僕に持たせないで!

ちなみに最近のらくらくホンは、すごいんだわ。単なる文字がでかくて機能が少ないものではない。

docomoのらくらくホン紹介ページより

認知症予防に役立ちそうなものが、ガッツリ入っているじゃないの。こういうの見ると、ますますシニア向けの機械のデザインって、まだまだ練っていけそうだな、と思いました。

docomoのページより

ワンセグもFMラジオも入ってる。
振り込み詐欺対策機能もついている携帯いいですね。
あれ、なんか、すでに欲しくなってきてる気が……。


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