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見えない老い -手が信じられないほどカサカサになるという話-

「老い」に関するトピック世界におきましては「老眼」や「頻尿」「ものわすれ」なんかはトップスタアなわけですが、実は名前のつかない「老い」がいろいろとありまして、日々の暮らしの端々でそいつらにダメージを食らうんです。家事で言えば「見えない家事」と呼ばれるような、小さくてそしてやっかいなやつ。それが私の何かを削っていくんです。
今日はそんな話です。

この原稿は編集者の伊藤ガビンが、日々感じている「老い」について、初心者としてメモしているものです。マガジンにしているので興味があったら、他の記事もどうぞ。

さて「見えない老い」の話。
私が、世界一かっちょいいデザインをするグラフィックデザイナーと思っているのは松本弦人氏なんです。
まあ、かっこいいですわ。作るものなんでもかんでも。
松本弦人さんは僕の2つ上で、つまりは還暦を過ぎたデザイナーなんだけど、いまでもエッジの研ぎすまされたデザインしてくるので怖い。

そんな松本さんとわたしは、20代前半でお互いペーペーの時に出会って、一緒に会社作ったり、いろいろとしてきた仲なんだけど、ここ10年くらいはわりと疎遠になっていたのですが、これがね、私が東京を離れ移住した2ヶ月前に、ほぼ同じ地域に移住していたわけですよ。真似すんなとか言われたりして。徒歩数分。同じスーパーや酒屋で会っちゃうっという。絵に書いたような腐れ縁です。

そんなわけで「最近、老いについて書いてるすよ。松本さんは、デザイナーとして困りごととかあります?」と聞いたんです。
「紙がめくれなくなったんよ」
あー。めくれないですね。確かに紙めくれない。手がね、手が、信じられないほどカサカサになりますよね。
スーパーのあの、うっすいビニール袋? ここ数年はあれ、まったくめくれなくてやばい。「いや、あれは老い関係なくみんなめくれないですよ?」とも言われるが、その「めくれない」のレベルがちがうんですよ。閾値がちがうの。スレッショルドが。
以前の原稿に「おっさんが爪楊枝でシーシーやってる理由がわかった!」と書きましたが、こんどは「おっさんが店先で指をべろりんとねぶる理由がわかった!(エウレカ!)」という感じです。とにかくめくれねえから。
だから、コロナで水を含んだスポンジがスーパーから消えた時は絶望した。その数カ月後にアルコールの入った玉みたいなやつにさっそうと登場した時は神に感謝しました。大げさすぎるか。神じゃなくて紙の話だった。とにかく紙がめくれないと?
「そう。デザイナーって紙を触るじゃん? 全然めくれないんだよね」
デザイナーとしては切実な問題なんですね。
それがストレス? 
「そうなんだけど、どうしたらいいか考えてさ、水をめちゃくちゃ飲むようにしたの」
ほう。意識して。
「めちゃくちゃ飲むようにしたのよ」何リットルもぐいぐいと?
「そう、そうしたら治った」
まじすか。今はめくれる?
「めくれるのよ」
え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

ほんとかどうかはわからないですが、デザイナー諸氏は水をぐいぐい呑んでみましょう。ちなみに松本弦人さんは、老眼も治ったと言ってました。
「ほらうち、窓から緑が見えるでしょ?  この家に引っ越してきてから治ったんだよね。緑でしょ。他に原因考えられなくない?」
というわけで、男一匹松本弦人は、手もカサついてないし、老眼も克服。元気そのものです。そんなことある??

ま、それはさておきです。見えない家事ならぬ、「見えない老い」は無数にあり、それが徐々に私達の「気力」を奪っていく。これが絵に描いたような悪循環だと思うんですね。
私がこのシリーズを書きはじめてから、うっすらと見えてきた老いのヤバさランキング第一位は「気力がなくなる」ってことだと思うんですね。いや、奪われると言ったほうが正確か。

老いは「気力を奪うこと」のデパートなんですよ。アマゾン・ドット・コムなんですよ。あらゆる瞬間に気力を奪ってくる。そして隙あらば次の「気力奪い」商品をレコメンドしてくる。朝起きてから寝るまでの間、あらゆる瞬間に気力を奪ってくる。一度気力が奪われると、それがまた次の気力を奪ってくる。
これは足が痛いから歩かなくなる。耳が遠くなったから会話を避ける。歯がなくなったから食べなくなる。それらが次々と気力を奪い続ける。

大きな「気力奪い」はまだいいんですよ。よかないけど、気がつくことができますので。しかし、やつらは細かく刻んで奪いにくるわけです。それがボディブローのように効いてくる、ってボディブロー打たれたことないんでわかんないですけども。
というわけで「見えない老い」を見逃すな!という話でした。

「はじめての老い」マガジンもどうぞ。



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