専門職大学院のメリットとデメリットは?
誕生の背景
1990年代末,行政改革を主唱した橋本内閣による省庁再編や制度変更のなかで,司法制度の改革により法科大学院の創設が議論された。先送りされたのが公務員改革であった。教育分野での公務員改革は,国立大学の独立行政法人化である。
1999年,文部省が独立行政法人通則法(99年7月成立)のもとに国立大学を独立行政法人化を表明すると,全大教をはじめ,各大学の職員組合,科学者会議などが,独立行政法人化にすぐさま反対を唱えた。
当時の声明をみてみると,
※ 制度化のメリットは,公務員制度の枠組みからはずれることで法人独自の意思決定が可能になること、業務執行面でも柔軟な経営が可能になることだった。
育成する学生像の混乱(資格とのリンクの失敗)
2004年にスタートした公共政策分野の専門職大学院の事例でみてみたい。
法学部・一般大学院 ⇒公務員と法曹,研究者人材
から,
・法科大学院⇒法曹人材
・専門職(公共政策)大学院⇒実務家+公共人材
司法試験とリンクした制度改革が幹部公務員として必要とされる能力体系の議論に結びつき,法科大学院に優秀な学生を奪われる懸念もあり,いっきに専門職学位課程が議論の俎上にのぼった。
2002年から始まった非公式の検討会で,専門職大学院の修了資格を公務員試験制度とリンクさせることが検討されたが,大学院修士課程の学生との競合,また特定の大学のみに設置される専門職大学院のみ有利に扱うことへの批判から早々にボツとなった。
次に,公務員として求められる能力が議論され,海外の大学院カリキュラムも参照されたが,その能力体系といっても経済学や工学部系統からの専門職大学院設置の構想も生まれ,うまく明確化できなかった。
その結果は,学位課程の中身の議論なしに,まず入れ物を作ることとなった。専門職と唄いながら特定の資格と連動することなく作られたため,国家・地方公務員だけでなく,政治家,ジャーナリスト,NPO・公共団体の幹部職員を養成することとなった。箱物行政の高等教育バージョンである。法科大学院に対抗する,急ごしらえの制度設計で,当初は事務系の幹部公務員の人材育成をめざしたため,法学部の公法系の教育の延長に経済学,政治学を加えた枠組みから脱することができず,工学系やデータサイエンス系など現代の高度人材に求められる文理融合の発想からは遠い存在となっている。
設置形態と教育内容(箱物としてスタート)
法科大学院への対抗意識から先に設置することが決まり,高度な職業人材を養成する明確な教育内容や基準,要件を定めないままスタートした。まず箱物として始まった学位課程のため,どの分野が主導権を握るかの競合が生じた。法学,経済学,政治学のうちでも高度公務員人材をということで,行政学が必須の分野として急浮上した。本来あるべき基準は「各大学の事情を考慮して」「ガイドライン」で定めることとし,設置認可の要件も最低限のものに引き下げられた。この点は,司法試験とのリンクで厳格に法律によって規定した法科大学院とは大きく異る。
専門職大学院を新たに設置する場合,教員を公募して新規に設立する例はごくわずかである。公共政策の場合,法律学,経済学,教養学部との兼任,場合によっては修士課程の教員も兼務する場合さえある。さらに2004年の国立大学の法人化と財源の継続的な削減で,多数の教職員を新たに雇用することは不可能になった。
このような困難な課題への解決策は,「教教分離」といわれる,教員組織と学部,大学院組織を分離させることだった。
この考案により,少数の専任教員のみ大学院所属とし,他の教育担当の教員は,既存の学部からかき集め(兼担),のこりをすべて非常勤講師にわりふる現在の仕組みである。設立当時の設置基準では,教員は学生15名に対して一人。定員が100名だと6.66人の専任教員が必要である。さらに教員の30%が実務家教員が必要とされ7名のうち,3名が実務家教員となる。だがこの実務家教員を新規で集められない場合は,「みなし実務家教員」として,専任教員の3分の2は非常勤でもよいとされた。
※ 専門職大学院の専任教員は,別の大学院研究科の専任教員としてカウント(ダブルカウント)することが認められている。
次に教育内容をみてみると,法学部出身以外の学生を広く集める一方で,卒業した学部によって基礎知識の未修・既修者の相違が大きく,初年度に学部レベルの授業を提供する必要ができた。
また学生間の能力の相違も大きく,研究者として必要とされる能力と実務の世界で役立つ能力のちがい,実務経験のある公務員と新たに公務員を目指す学生の混在など,より手厚い基礎教育のカリキュラム設計が要求される。
⇒ (教育する側の負担も増大)
修了要件も大問題だ。多くの単位を取得する必要がある一方,復帰や転職を考えると教育の効果が評価されるのは初年度の教育のみとなる現状がある。
これはは修了要件となって反映され,修士課程では必須の学位論文のかわりに,より多くの科目を履修して単位を取得することが学位取得の要件となった。
くわえて従来の大学院のイメージから学位論文なしに修士号を与えることに教員の強い反対があり,それは学位名称の相違となっている。たとえば「〇〇修士(専門職)」は共通であるが,修士の前の〇〇が公共政策,公共政策学,公共経営学など,ほぼ同じ教育の学位とは思えない名称が散見される。
※ 学位だけをみると,修業年限は同じなのに,法科大学院に進学した場合は「博士」,公共政策大学院の場合は「公共政策修士(専門職)」となる。
メリットとデメリット(悩ましいところ)
まとめると,欧米の専門職大学院をモデルにしたはずが,公務員などの資格とのリンクに失敗し,急ごしらえによるカリキュラム設計の複雑さ,学位名称の統一がなされなかったことが,特定の専門職としての能力の証明を求める学生側にも,採用する側にとっても混乱を招き,学位としての信用を損なう背景をなしている。
リカレント教育で社会人入試にチャレンジされる方には悩ましいところである。
入学者の選考方法
「小論文と面接(オンライン)」か「2科目の学科試験と研究計画書の口述試験(対面)
2年間の学費総額
メリットとデメリットは?
【メリット】
出身学部に関係なく受け入れる(受験できる)大学院が多数ある
選考方法が小論文と面接などで,実務経験と個人の研鑽が評価される
幅広い教員(専門性,実務経験など)から教育を受けられる
卒業後の人脈やネットワーク形成が期待できる
【デメリット】
修士課程に比べて,学費が2倍以上かかる
専任教員の人数が少なく,みなしや非常勤の教員が多い
専用キャンパスがなく,レンタルオフィスのような設備の場合さえある
学位名称の混乱や採用側の理解不足から専門能力の証明とならないこともある
若干のアドバイス(わたしの課題にします,,)
学部の卒業研究,実務の調査や研究の延長で修士課程の研究計画書がまとめられるなら,大学院修士課程へ
さらに博士課程(博士号)にすすむ場合も,大学院修士課程へ
大学院にもとめるものが研究ではなく,実務家としての能力開発の場合は,専門職大学院へ
教育訓練講座検索システム(厚生労働省)
職場の支援や専門実践教育訓練給付金が受けられる。かつ,
専門職大学院で検索した大学院の教員,カリキュラムをよくみて,専任教員(兼担のぞく)で指導を受けたい教員がいる場合は,専門職大学院へ
※ 雇用保険法改正により専門職大学も専門実践教育訓練給付金(上限112万円)が受けられます。
※ 元ハロワ職員のおしごとーりさんのまとめ参照
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