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「神は細部に宿る」って君は遠くにいる僕に言う 僕は泣く

 ここ数ヶ月ほど、ずっと頭にモヤがかかって何一つまともに物事を考えられないような状況が続いている。モヤモヤモヤあ、モヤモヤモヤモヤモヤそういえば、モヤモヤモヤモヤモヤモヤお腹すいたかも、モヤモヤモヤモヤ何食べよう?モヤモヤモヤモヤモヤモヤうどん!モヤモヤモヤモヤモヤモヤ。ずっとこんな感じだ。今日の夕飯を決めるのに間違いなく30分は費やしている。苦しい。モヤモヤ。本当に何もわからない。キューーッと胸の奥の方が縮む。うすらぼんやりと先のほうに将来の不安のようなものがおぼろげに見えるけど、それは決して像を結ぶことはない。そいつは僕に尻尾すら掴ませない。あ、眠い。
「また同期ラインに楽しそうな飲み会の写真が……。うー、うー、うーん……!いや、知らない。僕はどうでもいい。それよりも頭が痛い。きちんと物事を考えられるような精神的、肉体的な余裕がほしい。今月は何してたっけ……全然思い出せない。ていうか、本とか何にも読んでないじゃん……!あ、もうだめだ。だめです。もう家にあるもの全部売って、そのお金で畑でも買おうかな……3万円くらいあれば畑って買えるのかな……あー、うーん、いや、今はそれよりもコートがほしいかも、あー、これは今日もメルカリ眺めてるだけで一日が終わりそう」と、部屋で唸っていたら、いちごちゃんに蹴られた。
「うるさいです」
「すいません……」
 腰が痛かった。あと、背中と、肩も。全身が凝り固まってる。お腹が空いていたけど、ここ数日ずっと胃が痙攣しているので前に下北沢の古着屋でもらったカントリーマウムだけ食べた。

 ちなみに、いちごちゃんという存在は本当はいない。本当はいない、というのは、ここに、触れられるところにはいない、というだけで、本当はいる。僕が作った。僕が孤独と不安とで押しつぶされそうになったとある夜に、ふと、年下の毒舌美少年名探偵に貶され足蹴にされたい!と思って、作った。だから、いる。僕が望めばいるし、そうじゃないときは世界中の密室殺人事件見立て殺人事件メタ事件メタメタ事件日常の謎系事件冒険小説風事件怪事件SF的事件などを解決している。なんとも夢のある話だと思う。そういう話をいつか聞かせてもらえたらいいな、と思うけど、僕の貧困な想像力ではそういうことは思いつかないので、僕はいちごちゃんの解決した事件のディテールは何ひとつ知らない。
 変なパンダは本当にいて、今、僕を蹴ったのは本当はそいつの方だ。
「うるさいぞ」
「すいません……」
 腰と背中と肩が痛くてずっと胃が痙攣していてカントリーマウムだけ食べたのも本当だ。
 変なパンダがロフトにあがっていくのを見守って、それからまたスマホでメルカリを眺める時間になった。

 この前、ハンガーラックをもう一個買ったので、床に積み上がっていた漫画や小説や雑誌やエロ同人誌は全部ロフトの上に退避させた。すると部屋がきれいになった。自分の生活領域を侵食されたというのに、珍しく変なパンダは何も云ってこなかった。
 僕のなかで、ロフトの上は天界で、僕がいるところは地上という設定になっている。つまり、変なパンダは天使なのだ、僕のなかでは。

 なにか新しいことを始めたい、とぼんやり感じている。ということを、この前いちごちゃんに話した。いちごちゃんは肯定も否定もせず、ただため息をつくだけだった。最近、いちごちゃんは露骨にもうこいつには付き合えきれんわwというような反応をする。沖縄&大阪旅行から帰ってきて数日は僕もいちごちゃんもニコニコしていた。だけど、またすぐして僕がウダウダうるさくなっていくのを見て、もうだめだこいつは。手に負えない。弱い。弱すぎ。というような感じになってしまったのだ。結局、人はちょっと旅行に行ったくらいじゃ何も変わらないのだ。どこかに行っても自分なんてのが見つかったりもしない。破壊と再生なんてものとは程遠い。僕はそのことを、ゴールデンウィークとこの前の休暇を丸々使って、ようやく学んだ。ただ、疲れるだけ。疲れたぶんの楽しかった記憶を持ち帰るだけ。はい、残念。このバースに答えなどないよ、ということなのだった。なにか、もういい加減、ちゃんと真面目に、何かを始める必要があると思った。お茶を濁すようにたまに動いても意味ないんだと思った。腰を据える必要があるよ。覚悟を決める必要がある。

 そんなことをぼんやり考えながら、三連休のおわりに『冴えない彼女の育て方 Fine』というアニメの映画を観に行ったら思いの外感動したので、明日から僕も頑張ろうと思います。これはそういうマガジンにしようと思いました。

 なので、次回のタイトルは『泊まれる本屋に一日泊まってみた!』です。ご期待ください。

つづく

いとうくんのお洋服代になります。