ミンミン蟬
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第七十一回 眠
ミンミン蟬の鳴き声を聞いてはいけない。
そんな話を祖母から聞いた。冬の寒い山奥では、季節外れの蟬が鳴くという。
一緒にいた姉は可笑しげに鼻で笑った。
「蟬は夏の生き物よ。そんな事あるわけない」
僕もそうだと頷いた。この時までは確かにそうだと思い込んでいた。
ーーみ゛ぃィいんン、み゛ミ゛ィぃいぃん
四方の木々が蝉のような鳴き声で一斉に喚き鼓膜を破壊する。まるで永遠の眠りへ誘うように音が人を喰らう。
劈く叫びが雪山に反射して吸収される。
聞いてはいけない。祖母の言う通りだった。
音に呑まれて自身を見失う。如何に視覚が働こうと、音が無ければ知覚が難しい。
ミ゛ぃィン、ミ゛ミ゛ィィぃ……。
押し潰される様に、意識が閉じた。
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